ニュースによっては編集作業中に事態が動くので、現場の記者からは新たな情報が電話で続々とデスクに報告される。デスクはそのたびに現場記者に原稿を一から書き直すよう命じたり、自分で加筆修正したりしながら、出来上がった原稿を次々と整理部に出稿していく。また、夜間に大きな事件や事故が発生したり、時差のある海外から突発的なニュースが飛び込んできた場合には、午後五時半の会議で決めた紙面構成を根本から変えることもある。
二〇〇一年九月一一日に発生した国際テロ組織アルカーイダによる米国同時多発テロ事件は、朝刊編集作業の途中に紙面構成が根本から変わった典型例である。二機の旅客機がニューヨークの世界貿易センタービルに突入したのは、日本時間午後九時四六分と午後一〇時三分であった。毎日新聞のような全国紙では、東北北部や九州南部などに配達する「統合版」という締め切りの早い新聞の制作がほぼ終わっており、この統合版にはテロのニュースがほとんど掲載されないか、全く掲載されなかった。そこで午後一〇時過ぎからの二度目の編集会議で紙面構成を全面的に見直し、その後の版から紙面はテロのニュース一色になったのである。
ここまで朝刊編集の流れを概説したが、新聞社によっては朝刊だけでなく夕刊を発行していたり、夕刊しか発行していない新聞社も存在する。夕刊の取材は早朝から始まり、編集作業は午前九時ごろから本格化し、午後一時半ごろまでおよそ四時間半ほど続く。朝刊に比べると夕刊はページ数が少なく、掲載するニュースの数も非常に少ないので、記事の執筆と編集に携わる人の数も少ないが、作業の流れは朝刊と基本的に同じである。ここまで私が勤めていた毎日新聞社を例に挙げて新聞制作の流れを説明してきたが、若干の違いはあるにせよ、新聞社はどこも似たようなプロセスで新聞を制作している。
ニュース感覚
以上、新聞制作の具体的な流れについて説明してきたが、一連の流れの中に、どのニュースを報じるべきかを決める瞬間が三度あったことに気付いていただけただろうか。