ちくまプリマー新書

マヤ文明の驚くべき天体観測と暦の話
『古代文明と星空の謎』より本文を一部公開

ストーンヘンジ、ピラミッド、古墳、数々の暦、民話――人類と星空の関係を読み解く一冊『古代文明と星空の謎』(ちくまプリマー新書)が好評発売中! 本書が扱う「古天文学」は、いにしえの人たちが星空をどのように眺め、何を見出してきたのかを歴史上の遺跡や記録などを手掛かりに読み解く研究分野です。今回の記事ではマヤ文明の宇宙観、すぐれた天体観測技術と暦の関係をひもときます。

地球と金星の会合周期

 話を「地球と金星の会合周期」(図3)に戻しましょう。

図3 金星の内合と外合

 「会合周期」の「会合」とは、中心となる天体を回る二つの天体が、その中心の天体から見て同じ方向に来る現象です。

 中心となる天体を「太陽」、その周りで回っている二つの天体を「地球」と「金星」で考えると、太陽と金星と地球がほぼ一直線になる現象のことです。

 太陽の周りを回る地球と金星の場合、金星より遠い公転軌道で回る地球が1周するのにかかる日数は365・24日、地球より内側の公転軌道で回る金星は224・70日です。つまり、金星の方が地球より速く回っています。よって、金星は地球に追いつき、追い越し、また追いつき、追い越すことを繰り返しているのです。

 このとき、金星が地球と太陽の間に来てほぼ一直線上に並んだ状態を「内合」、金星が太陽を挟んで地球と反対側でほぼ一直線上に並んだ状態を「外合」と呼びます。

 この「内合から内合」あるいは「外合から外合」までの周期を「会合周期」と呼びます。

 金星の会合周期は584日で、内合付近で金星が太陽の光で見えない期間が約8日、同じく外合付近では見えない期間が約56日ですので、残りの明けの明星が見える期間が約260日、宵の明星の見える期間も約260日ということで、ここから儀礼暦の260日周期が定められたという説もあります。

 もう一つ、マヤ文明の人たちが金星の会合周期を理解していたと推測される話があります。

 ドレスデン絵文書と呼ばれるマヤ文明の古文書の46ページから50ページまでは、金星について書かれています。その各ページの左下には「236」「90」「250」「8」という数字があり、合計は「584」です。

 これらの数字がそれぞれ「明けの明星が見られる期間(236日)」「外合付近で金星が見えない期間(90日)」「宵の明星が見られる期間(250日)」「内合付近で金星が見えない期間(8日)」そして「金星の会合周期(584日)」を表していると考えられているのです。

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