ちくまプリマー新書

資本主義=悪? 搾取を生まないビジネスの新しいかたち

『ファッションの仕事で世界を変える』より本文一部公開

この世界を良くしたい。ビジネスの世界で活躍したい。キラキラと輝く「好き」をあきらめたくない――「エシカル・ビジネス」を切り拓いた起業家が贈る『ファッションの仕事で世界を変える』(ちくまプリマー新書)より、本文を一部公開! 鹿児島に生まれた著者が世界に羽ばたいたきっかけ、貧困の現場で見た現実、そして出会ったベトナムの鞄づくり。新しい資本主義の姿をつくり出す、新しいビジネスの形とは?

ベトナムの鞄づくりと、搾取を生まない新しい資本主義

 その後、ロンドンに戻り大学で鉱山労働の現実について調べていくと、わたしが見てきたような鉱山労働の現実はインドだけの話ではなく、東南アジアのフィリピンやインドネシア、ペルーやコロンビアなどの南米諸国、アフリカ大陸の国々でも起こっていることであると知り、何もできない自分であるかもしれないが、何もしないよりはずっとましだと自分を奮い立たせ、国連での実務経験を重ねるために大学卒業後にベトナムに渡ります。

 べトナムでは、UNFPA(国連人口基金)とアジア開発銀行研究所での合計六カ月間をインターンとして働きました。ベトナム滞在中は、積極的に国連の他の機関で働く職員の方の話を聞きに行ったり、各国大使館の職員の方々や青年海外協力隊として働いている方、そのほかにもできる限り社会人と会ってキャリアの相談をしていました。ベトナムに渡った当初はインターンを終えたら大学院に戻り、研究を続ける予定だったのですが、この時にもわたしの人生を変える出来事があり、日本に帰る選択をしました。

 インターンの仕事が休みの日に、ハノイ中心部にあるお気に入りの鞄屋さんを見ていた時のこと。わたしが訪れていたのはビーズの刺繡がとても素敵なイパニマという鞄ブランドで、このブランドの創業者である香港人のクリスティーナがたまたま店舗に来てスタッフと楽しそうに会話をしている場面に遭遇しました。クリスティーナをはじめとして、素敵なデザインの洋服に身を包み、華やかでお洒落な空間で可愛い鞄に囲まれておしゃべりをしている女性たちの姿が皆とても楽しそうで、自分が幼いころ憧れていたファッションの世界を思い起こさせるような光景でした。

 このブランドのことを調べていくうちに、刺繡をしているのは手先の器用なベトナムの女性たちであることを知りました。女性に雇用を生み出し、国際協力と銘打ってはいないながらも、皆で良いものをつくり上げているその姿に感動すら覚えました。いままでは、国連やNGOやNPO(Nonprofit Organization・非営利団体)など、いわゆる国際協力の世界でしか貧困問題や環境問題を解決することはできないと思い込んでいたけれど、もしかしたらこのクリスティーナたちが実現させている世界も、れっきとした国際協力と言えるのではないか? 手先が器用なベトナムの女性たちの能力を最大限に引き出し、ここでしか制作できないものを、皆で創造する。小さな規模かもしれないけれど、何人かの生活の糧になり、ここで美しいものを生み出すことが誇りにもなっているように見える。それに加えて、国際協力の世界でわたしが疑問に感じていたこと―国際協力する側(与える人)と国際協力される側(受け取る人)の構図がはっきりあることで、国際協力依存になってしまうことが、こうしたビジネスの世界にはないのではないか? パートナーとして一緒に美しいものをつくり上げることで、一緒に肩を並べて良い世界を創造していくことができるのかもしれない。これまで国際協力の研究のさなかでは、ビジネスの世界=資本主義は悪で、これが貧困や環境問題などの弊害の原因となってきたと説明されることが多かったけれど、目の前にあるこのビジネスは、決して搾取が生まれるような資本主義ではなくて、共に良いものを生み出せる資本主義で、こんな姿をつくり出せるのであれば、ビジネスって素晴らしいものなのかもしれない。これに気づいたわたしは、一気に新しい資本主義の姿をつくり出せるようなビジネスを考えたいと、自分の想いが転換してゆきました。

…金融ビジネスの中心地に飛び込み、働きながらジュエリーブランドを立ち上げに奔走し――続きは『ファッションの仕事で世界を変える』でどうぞ。


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