秋が終わりに近づき、街路樹の葉がすっかり落ちると、冬はかけ足で近づいてきます。露出した肌や手の冷たさに気づくと、あたりはもう冬。そんな冬の気配は、街のなかに漂う焼きいものこげたにおいからも感じます。みんな、そのこげたにおいをたよりに、焼きいも屋さんを探します。自転車にドラム缶を乗せた車をつなぎ、木炭で焼きながら売る昔ながらのスタイル。どんどん近代化していく北京でも、変わってほしくない状景です。
私は子どものころからの焼きいも好き。大人になってからも仕事の帰りに一本買って、母が作ってくれたおかゆに入れ、お気に入りのテープをききながらかき混ぜて食べると、夜道の寒さと疲れがとんでいったのもなつかしい思い出です。いまでも焼きいも屋さんを街で見かけると、昔の自分にもどり、しばしノスタルジックな気分に浸ってしまいます。
ですから、北京に帰るたびににおいを求めて、子どもたちといっしょに街に出ます。子どもたちも焼きいものにおいを探す嗅覚が確実に成長し、いまでは私より先に見つけるくらいです。飛行機に乗るたびに「焼きいもが食べられるね」とうれしそう。
まるで北京に焼きいもを食べに帰るようなものです。
北京のさつまいもは日本のさつまいもより水分が多く、甘みも強い。種類名はわかりませんが、オレンジがかった黄色で、やわらかくて水分が多くて、見るからにおいしそう、とこう書くと日本のさつまいもホクホク派から異論が出るかもしれません。
そうなのです。日本のさつまいもはホクホクしているのがおいしいといわれていますが、中国ではホクホクいもはあまり見かけません。中国へ行った方ならわかると思いますが、中国ではいわゆるコシの強い麺に出会いませんよね。それと同じで、中国と日本では食感が違うものが、じつはかなりあります。
中国のおいしい食感はやわらかいもの、なめらかなものをよしをする傾向があるのに対して、日本ではコリコリした固いものにあるように思います。この理由は、これはあくまでも私の想像ですが、中国のおいしい食感は、調理をして、よく火が通ってやわらかくなったものであるのに対し、日本では、お刺身の引きしまった固さにあるのではないか、と思われます。
でも、これは中国と日本の違いと、いちがいには決めつけられません。なぜなら、私はお刺身のトロのやわらかいところよりは、白身のコリコリしたほうが断然好き。同じように日本の人でも、ホクホクした焼きいもよりは、北京のジュルジュルした焼きいものほうが好き、という方もきっといると思います。
焼きいもから話は、思わぬ展開をしてしまいました。日本の人にもぜひ好きになってほしい。でも、北京のあのやわらかくて甘い焼きいもは、日本の人にもぜひ好きになってほしい。ちなみにわが家では夫はホクホク派、私と娘はジュルジュル派、息子はどちらでもいい派です。
焼きいもの話をしたからには、焼き栗の話もしないといけませんね。
中国の焼き栗という日本では天津甘栗が有名ですが、天津あたりは別にくりの産地ではありません。天心は港町で北京とは120キロ離れています。北京の郊外は栗の産地ですから、昔、そのあたりでとれた栗を天津港から出荷したので、天津甘栗の名がついたのではないか、という説がいまのところ有力です。
焼き栗には、小粒で殻をむくのは面倒だけどそのぶん、甘いのと、大粒で食べやすいけど甘みでは小粒にゆずるものとの、2種類があります。私はもちろん小粒派。
また近ごろ、東京では皮をむいた甘栗が真空パックされて、コンビニの人気商品になっているとか。たしかにだれかがむいてくれた甘栗を食べる気分は、とても幸せなもの。でもその幸せをお金で買うとなると……。そんなことを考えるのは、私がもうおばさんだからかもしれませんね。
でもね、焼きたてのくりをコートのポケットに入れて歩くと、ホカホカして、とても温かくてよかったんです。まるでカイロみたいで。やっぱりおばさんかあ。