選ばない仕事選び

第6回 お金と仕事は無関係?

浅生鴨さんの連載第6回。お金のために働いているわけじゃない?? それはどういうことだろう??

ああ、働きたくない。仕事なんてやりたくない。とにかく何もしたくない。ひたすらゴロゴロしていたい。そんなわけで僕はしばらくゴロゴロしていたのである。本を読み、オヤツを食べ、配信サイトで海外ドラマをたっぷりと楽しんで、そして眠くなったらベッドへ入る。もちろん朝は二度寝をする。するに決まっているじゃないか。そりゃもう最高の日々である。この原稿のことなんてすっかり忘れているわけである。

だがしかし、このすばらしき日々はそう長くは続かない。筑摩の編集者・鶴見さんから無情な催促メールが届くのである。しかも2回も。

ああ、仕事は向こうからやってくる。けっして逃げられないのだ。

お金がないと生きづらい

前回、これほど働きたくない僕が、それでも働かなきゃならない理由は、どうやらお金を手に入れるためらしいと書いた。たいていの人と同じように、僕は仕事をしなければお金を手に入れることができない。

もちろん世の中には、たいして仕事をしなくてもお金が手に入るって人はいるし、すでにお金をたくさん持っているからこれ以上は手に入れなくても構わないって人だっている。ああ、なんて羨ましい人たちなんだ。彼らにやさしく手を差し伸べてあげたい。そして、できることなら代わってあげたい。そうすれば僕はずっとゴロゴロしていられるのだぞ。

とはいえ、それは特殊な例であって、やっぱりほとんどの人は仕事をしてお金を手に入れるのである。

そして君たちだってよく知っているように、今の日本社会はある程度のお金がないと生きづらい仕組みになっている。何をするにもお金が必要で、だからこそ僕たちはより多くのお金を手に入れようとするわけだ。

「将来どんな仕事がしたい?」と聞かれて「お金がたくさんもらえる仕事」と答える人は、たぶん少なくない。世の中にどんな仕事があるのかをあまり知らなくても、それなら答えられるし、聞いた側も「ま、そうだよね」と納得できる。

 

みんなお金が欲しいのだ。僕だって欲しい。たくさん欲しい。うなるほど欲しい。ああ、うなってみたい。誰か僕をうならせてください。大金を振り込んでくれるのをお待ちしております、はい。

お金のことはしっかり意識しよう

働き方や仕事についてアドバイスをくれる大人の中には「お金よりも、世の中の役に立つかどうか、自分が成長できるかどうかが大事なんです」なんてことを言う人がいるけれども、あれは何かをごまかしているのだと僕は思う。

大人がどんなアドバイスをしようとも、社会貢献や自己実現と同じくらいお金も大切なんだってことを君たちはしっかりと意識しておかなきゃならない。そして「お金よりも自己実現だよ」なんて言う大人がいたら、あまり近づかないことをおすすめする。

 

けれども、よくよく考えてみれば不思議な話じゃないか。僕の決めたルールでは、仕事とは世界をほんの少しだけ変えたり、世界に何かを付け加えたりする動作のことだから、本来お金とは何の関係もないはずなのだ。それなのに、どうして僕たちは仕事をしなければお金を手に入れられないのだろう。

仕事とお金は無関係

さて、前回のこの連載で僕は「お金は仕事とは関係がない」と書いた。たぶん、何をバカなことを言っているのだと思った人もいるだろう。お金を手に入れるために仕事をしているに決まっているじゃないか、関係ないはずがないだろうと思った人もいるだろう。たぶんほとんどの大人はそう言うに違いない。でも、本当に関係がないのだ。少なくとも僕はそう考えている。

それでは、今からちょっとだけややこしいことを書くぞ。

僕たちは「お金を手に入れるために仕事をしている」のではなく「仕事をすることでお金を手に入れている」のだ。この違いがわかるだろうか。ややこしいよね。もっとわかりやすく書けたらいいんだけど、これ以上シンプルに書けないんだ。すまぬ。

ここでもう一度、僕の考える仕事とは何かを思い出してみよう。仕事とは、意志を持って世界を変えること、世界に何かを付け加えることだった。つまり、仕事の目的は世界を変えることでお金を手に入れることじゃない。あくまでもお金は仕事をした結果として手に入れるものなのだ。

仕事をしないでお金を手に入れることは難しい。でも、お金を手に入れるために仕事をするわけじゃない。そこがポイントなのだ。

僕たちは世界を変えるために仕事をする。そして、その仕事に対してお金がたくさん払われたり、少しだけ払われたり、ときには払われなかったりする。

だから僕は仕事とお金には関係がないと言う。だって、お金が払われようと払われなかろうと君は世界を変えるのだから。そして、それが仕事というものなのだから。

お金は勝手に払われるもの

それじゃ「お金がたくさんもらえる仕事」って何なのだろう。それは、多くの人がたくさんのお金を払いたくなる仕事だ。お金をたくさん払ってもいいなと思う仕事だ。それは時代によって、場所によって、そして人によってどんどん変わるもので、決まっているわけじゃない。やっぱり仕事そのものとは関係がないのだ。

世界を変えたことに対して誰かが勝手に払ってくれるものがお金なのだと僕は思っているし、実際にこれまでずっとそういう働き方をしてきた。

もちろん働いた結果として、たくさんのお金が払われたら嬉しいし、もっとたくさん払われたらもっと嬉しいのは当たり前だ。僕としてはできるだけたくさん払って欲しい。どうしていいかわからず困るほどたくさん払って欲しい。もしもいま書いているこの原稿の原稿料が一万倍になったら、たぶん喜びのダンスを踊っちゃうだろう。

そういえば、ときどき「お金をもらえばプロ、お金をもらわなければアマチュア」なんてことを言う人がいるけれども、本当にそうだろうか。だって仕事とお金は関係がないのだぞ。次回は、そのあたりをもう少しだけ考えてみたいと思う。