ちくまプリマー新書

なぜこの地球に我々は存在するのか……現在考えられている生命発生のシナリオ
『なぜ地球は人間が住める星になったのか?』より本文公開

宇宙の進化の中で地球はどのようにして生まれたのか。そして地球で生物はどのように発生し、進化を遂げたのか――地球と生命の共進化の歴史を探る『なぜ地球は人間が住める星になったのか?』(ちくまプリマー新書)が好評発売中です。本書より生命の起源に迫るパートを一章分、一挙公開します!

生命発生のシナリオ

 この3つを踏まえて、現在考えられている生命発生のシナリオは次の通りです。①反応活性物質といわれるシアン化水素、ホルムアルデヒドなどができる、②反応活性物質からアミノ酸、核酸塩基、糖、脂肪酸、炭化水素などができる、③これらからタンパク質、核酸、多糖、脂質などの高分子ができる、④これらが集合・作用しあって(自己組織化)、代謝、複製機能を持つ原始生物が誕生するというものです。①〜③の過程が化学進化になります。

図6 生命の材料の供給源と有機物生成のエネルギー源として考えられているもの『地球惑星科学入門』(岩波講座地球惑星科学1)をもとに作成)

 ④が現在でもよくわかっていない生命誕生です。一つの考えは、最初はRNAを利用していたと考えるRNAワールド仮説です。RNAには自己を複製する能力があり、さらに遺伝情報も伝えることができます。もう一つの考えは、タンパク質が触媒になってRNAやDNAが作られることから、タンパク質が生物の起源となったという説です。タンパク質は生命の機能を担う物質です。つまりこれは、情報が先か機能が先かという、いわばニワトリ―卵論争です。

 ただ、1980年代後半、RNAはたんぱく質の合成の触媒にもなれるという機能も見つかりました。つまり、RNAワールド仮説が有力になっているのが現在の状況です。

 そのうちに、RNAより安定性の高い、すなわちより分解されにくい、また自己修復能力を持つ2本鎖のDNA(RNAは1本鎖)が利用されるようになっていき、そして現在の生物の情報伝達の道筋、DNA→(転写)→RNA→(翻訳)→タンパク質という、いわゆるセントラルドグマが完成したのでしょう。DNAを作り出す能力を持つレトロウイルスは、RNAワールドから現在のDNAワールドへの移行期の化石的なものなのかもしれません。この辺のこともよくわかっていないのです。

 また、代謝が行われるようになると、外部との物質のやりとりが必要になります。つまり、巧妙な機能を持つ膜が作られなくてはなりません。さらに生きていく以上必要な食糧をどう確保したのかも問題です。「有機物のスープ」内で生命が誕生したとすると、周りの有機物を消費し尽くしてしまえばたちまち食糧危機に瀕します。有機物が何らかの原因で作り続けられている場所がないと、あるいは生物自身が触媒となって有機物を作り続けることができないと生き残れなかったことになります。これらのこともまだ、よくわかっていないことがらです。

 結局、化学進化→生命誕生→生物進化の道筋の中の、生命誕生についてはまだ実験的に再現できていないし(人工生命、ただし本当に作っていいのかという問題もあります)、これで確定という説もないというのが現状です。物質から生命への大ジャンプは今でも未解明の大きな謎なのです。

 ただ、図7でわかるとおり、マグマオーシャンやジャイアントインパクトという時代が終わって、現在のような海と陸があるという環境になった、つまりかなり落ち着いた時代になってから生命は誕生したのでしょう。生命誕生には何億年という長い時間が必要だったかもしれませんが、原始地球ではその時間は十分に確保されているのです。しかしその時間は、実験室内の実験ではとても再現できない長さです。

図7 生命発生の舞台の歴史と生命の歴史

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