ちくまプリマー新書

なぜこの地球に我々は存在するのか……現在考えられている生命発生のシナリオ
『なぜ地球は人間が住める星になったのか?』より本文公開

宇宙の進化の中で地球はどのようにして生まれたのか。そして地球で生物はどのように発生し、進化を遂げたのか――地球と生命の共進化の歴史を探る『なぜ地球は人間が住める星になったのか?』(ちくまプリマー新書)が好評発売中です。本書より生命の起源に迫るパートを一章分、一挙公開します!


最古の生物の証拠を探す

 生物の起源を探る一つの方法は、現在から過去へ遡っていくことです。でも、家族の歴史と同じで、両親―祖父・祖母―曾祖父・曾祖母と遡って行くほど、だんだんと曖昧になっていきます。日本の歴史もそうです。平安時代―奈良時代―飛鳥時代―古墳時代―弥生時代―縄文時代―旧石器時代と遡って行くほど、だんだん資料も少なくなり、不確かなことが増えていきます。

 生物の場合は化石を遡ることになります。5億4000万年前くらいまでは化石として残っているものはかなりありますが、それ以前となるととたんに見つかる数が減ります。それでも、わかることは、過去に遡るほど単純な構造をした生物になっていくということです。具体的には多細胞生物のいる時代から、単細胞生物ばかりの時代になっていきます。もちろんこういう小さな生物の化石は、恐竜の化石のように肉眼で見えるものではなく、顕微鏡を使わないと見えない非常に小さなものです。

 その中で、比較的はっきりとした最古の生物の化石は、西オーストラリア西北部ピルボラ地域で見つかった、約34億年前のものです。他の地域から侵入したものだとすれば、もっと早くから生物はいたということになります。

 それ以前になると、生物そのものではなく、生物の痕跡になってしまいます。カナダのケベック州からは、37億〜40億年前の生物が作ったのではないかというものが見つかっています。ただ、こうした構造は、非生物的に作られることがあるという批判もあります。

 さらに、古い地層として有名なグリーンランドのイスア地域の岩石に含まれている炭素が生物起源だという学者もいます。炭素の同位体(同じ元素で中性子の数が違う)には炭素12のほかに炭素13があり、炭素12の方が少しだけ質量が小さい(軽い)のです。生物は軽い炭素12の方を選択的に利用します。ですから、標準の炭素12と炭素13の割合よりも炭素12の割合が大きければ、その炭素は生物が利用したもの、生物起源といえるのです。イアス地域の岩石に含まれる炭素は炭素12の割合が大きいので生物起源の可能性が高いといえます。こうした炭素を含む岩石の中で最も古いのは39・5億年前のものです。

 いずれにしても、生物は34億年前にはすでにいた、もしかすると40億年以上前からいたということになります。ただ、それがどのような姿をしていたのかについてはまったくわかりません。

生物の進化から推定する

 生物の起源を探るもう一つの方法は、現在の生物を詳しく調べて、その進化の過程を推定することです。現在、生物の一番おおもとの大分類はリボゾーム(細胞内でタンパク質を合成する場所)の構造の違いから、真核生物(ユーカリア)、アーキア(古細菌)、バクテリア(細菌)と大きく3つに分けるのが一般的です。これをドメインといい、生物は真核生物ドメイン、アーキアドメイン、バクテリアドメインと3つのドメインに分類されます。

 真核生物は単細胞生物ばかりか、多細胞生物も含まれます。つまり動物や植物、そしてわれわれ人間も真核生物です。真核生物の細胞は、他の二つのと比べて大きく、細胞の中に遺伝情報を司るDNAをまとめて収納する核を持っています。

 それに対して、アーキアとバクテリアは小さく、それに単細胞生物ばかりです。DNAも細胞中に散らばって存在しています。ですから、これらの方が単純な形態であることは確実です。なお、古細菌といってしまうと、細菌よりも古いというイメージになってしまうので、アーキアというのが一般的です。DNA複製に関係する酵素、細胞膜の構造などから真核生物とアーキアは近い関係とわかるので、まずバクテリアがわかれ、ついでアーキアと真核生物がわかれたという可能性が高いです。ただ、真核生物は、原核生物を取り込むことによって、現在の形になったこともほぼ確実です。まとめると図1のようになるかと思います。

図1 生物の大分類、3 つのドメイン

 そしてこの図にあるように、3つのドメインには共通祖先(最初の一つの生物)があったことも、ほぼ確実だと思われます。これについては後で述べます。

 なお、現在のアーキアは100℃前後の温泉を好む好熱菌、高塩分を好む高度好塩菌など、バクテリアや真核生物が住めない環境にいるもの、さらにはメタンを生成するメタン菌などがあります。生命が発生したころの地球はこうした〝過酷〞な環境だったのか、あるいは真核生物やバクテリアとの生存競争の結果、こうした環境に追いやられたのかはわかっていません。

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