ちくま新書

簿記の温故知新な一冊

田中靖浩『会計と経営の七〇〇年史』書評

2016年度「NHK高校講座 簿記」のMCを務めたタレント/パーソナルトレーナーの酒井瞳さん、実はアイドルとしてデビューする前の高校時代に簿記を学び、全商簿記一級を取得されています。簿記は難しく、高校時代の勉強を「思い出しただけで鳥肌が立つ」という酒井さんが、『会計と経営の七〇〇年史』を読んだ感想は――?

 はじめまして、タレントでパーソナルトレーナーの酒井瞳です。
 皆さん、「簿記」についてどんなイメージがありますか? 難しそう? 仕事の役に立ちそう? はい、どちらも正解です。
 そもそも簿記というのは、会社のお金の出入りを記録することです。そして、一年間の記録をまとめて報告するのが「会計」です。私は商業高校出身で、就職活動に有利な資格が欲しいという理由だけで簿記の勉強をしていました。安易な気持とは裏腹に、簿記はとっても難しかったのをしっかり覚えています。覚えなきゃいけない単語多すぎ……仕訳一つのミスで計算がすべて狂う恐ろしさ……思い出しただけで鳥肌が……(笑)。しかしそんな私ですが、一生懸命勉強しまして、全商簿記検定3級、2級、ついに1級も合格しました!
 ……なんですが、私は高校卒業後、アイドルとしてデビューしました。アイドル活動ではやはり簿記の資格が活きる場面はなかなかなく、まあ高校時代に頑張った思い出だ。と思っていた私に、まさかのお仕事依頼がきました。
 なんとNHK高校講座の簿記の番組です!
 しかも司会という大役‼ 10年目にしてこの資格が大いに役立つ時がきたのです。プロフィール欄に記載してて良かった。
 こうして簿記と10年ぶりに再会したのですが、想像以上に簿記のことを忘れていてショックでした。せっかくの機会なので、復習をするために改めて勉強し直し、日商簿記検定3級の資格も新たに取得しました。感想は……やはり難しかった(笑)。
 そして今回、田中靖浩さんの著書『会計と経営の七〇〇年史』の書評を書くというご依頼をいただきました。簿記、たしかに仕事に役立ちます。でも、簿記は“難しい”と身にしみている私。楽しく読めるのかな……と不安を持ちつつ(失礼をすみません)拝読させていただきました。すると自分でも驚き! 気づいたら、100ページくらいまで一気に読み進めてました。本の半分くらいですね。この本は、勉強のための本というより、簿記を主人公にした人間・お金・商売の物語でした。
 もちろん歴史の勉強にとてもなるし、簿記が私たちの生活にどれだけ関わっているのかがわかります。この本では会計の歴史を、人間がお金を追求する六つの物語で紹介しています。
 お話は、簿記はイタリア発祥という衝撃の真実から始まります。簿記が誕生したのは、景気悪化への苦肉の策。人間の「ここで諦めてたまるか」精神がどんどん進化して、素晴らしい今のビジネスを作っていったんだとわかります。今まさに新型コロナウイルスによって世界経済は大きく変化していますが、またこの逆境をバネに新しいビジネスが発明されていくんだと思うと、私も何かしなくては!と背中を押してもらえます。
 後半には、利益計算や減価償却といった簿記の専門的なワードが出てきて、一度休憩しようかなとなりますね(笑)。しかし田中さんは、ここも大変興味をそそられる物語にしてくださっています。舞台は蒸気機関が誕生し、大量生産が可能になった一九世紀のイギリス。産業の規模が大きくなるほど、会社を始めるには巨大な資金が必要になってきます。そこで生まれた必殺技が“減価償却”なんだそうです。「なるほど‼」ってつい声に出してしまいそうなくらい納得しました。
 そもそも簿記って、勘定科目という名の単語たちが鬼のようにあるじゃないですか……。それを暗記しなきゃいけない作業も、心が折れる要因なんですよね。その簿記用語たちの誕生秘話なんて考えたこともなかったけれど、本書でたくさん紹介されていくので、とっても理解しやすくなりました。簿記を勉強する前か、挫折寸前にぜひ読んでほしいです!
 私は簿記を計算以外の視点で見たことがありませんでした。同じように、簿記は頭を使う、難しいと思っている方は多いと思います。本書はそのハードルをとっても低くしてくれる、新しい簿記の入り口でした。簿記の温故知新な一冊だと思います。