ちくま新書

ゴルフに正解はない。あるのはあなたに合う方法だけ
『ゴルフ白熱教室』はじめに

「何年たってもスコアがよくならない」「練習場ではいいのに、本番ではミスする」「ゴルフ雑誌やYouTubeを見ても、いろんな人が全く違うことを言っていて、どれを信じていいのかわからない」--こんな悩みはないでしょうか? そんなあなたのために、読むゴルフ雑誌『書斎のゴルフ』元編集長である著者が、教室を開きました。様々なタイプのアマチュアゴルファーが、どのように悩み、それを克服していったのか? プロと共に熱い議論を展開します。ゴルフにただ一つの正解はありません。この中からあなたに合う解決方法を見つけてください。倉本昌弘プロも推薦のちくま新書6月の新刊『ゴルフ白熱教室』の「はじめに」を公開します。

発言者(五十音順)①ゴルフ歴②平均スコア・HD(ベストスコア)③年間ラウンド数
④ドライバー飛距離
・五十嵐龍吾(66歳・男性)①35年②95・HD18(78)③10回④210y
・面樽太志  (66歳・男性)①30年②90・HD18③50回④220y
・鎌倉太一  (64歳・男性)①10年②98(87)③40回④220y
・喜瀬陽一  (66歳・男性)①40年②100(81)③10回④200y
・京橋一蔵  (63歳・男性)①35年②95・HD18(80)③65回④210y
・向山 健  (66歳・男性)①40年②95③15回④200y
・高松丸平  (66歳・男性)①40年②98③30回④230y
・野方よん  (65歳・男性)①53年②88・HD12(68)③25回④220y

――こんにちは。この「ゴルフ白熱教室」を主宰することになりました本條強です。読むゴルフ雑誌、『書斎のゴルフ』(日本経済新聞出版社刊)の編集長を20年以上務めました。
 この教室は、様々なアマチュアゴルファー25名の方に集まってもらい、悩みや考えを自由に話していただく場所です。それぞれゴルフ歴やハンデは違いますが、ゴルフが好きで真剣に取り組んでいる方ばかりです。レッスンプロ3名の方にも加わっていただき、教える側からのご意見も出してもらおうと思います。
 長年多くのプロゴルファーやトップアマ、レッスンプロやインストラクターの方々を取材してきて、徐々に思いを深めたことがあります。その方々のおっしゃることはすべてご自分の経験に裏打ちされており、なるほどと思わされることばかりですが、人によって解決法や理論がまったく異なることがよくありました。つまり、同じテーマの解決方法に、何通りもの正解があるとわかってきました。ゴルフにおける正解はプレーする個々人の正解であり、万人の正解はないということです。
 多数の人には正解であっても、少数の人にはまったく不正解ということもあるわけです。私はゴルフ雑誌編集者として、なるべく多くの人に正解となることを紹介したいと考えていましたが、少数の人にとって正解となることを決して斬り捨ててはいけない、間違いだと決めつけてはならないとも感じてきました。
 今回、集まっていただいた皆さんに、様々なテーマに対して自由に意見交換を行っていただき、それに関して最も大事なことは何かを探し出していきたいと思います。
 得てしてゴルフは細部に目が行きがちです。ミスショットが出た場合に、自分のどこが良くなかったかを自問自答するからでしょう。
 アドレスが良くなかった、クラブの振り方が良くなかった、目線が良くなかったなど、それからさらにその細部、前傾の仕方やバックスイングの上げ方、トップの形、インパクトのフェースの向きなどを考えがちとなります。それでも解決できないときに、深い悩みに陥り、自分のゴルフを見失うことになる人もいます。「枝葉末節にとらわれて、大局を見失う」。ゴルフにおいて最も怖いところはそこにあります。大事なことは良いプレーをもたらす根幹となる大局を念頭に置きながら、細部を検討するということでしょう。よって、これからの議論では常に大局を念頭に置いてほしいと思います。そうしないと上達への道を遠ざけてしまいかねず、ぐるぐると袋小路に陥ることにもなってしまうと思います。大局を見失っていないものであれば、枝葉末節も意味のあるものとなるでしょう。
 ゴルフにおいてすべての人に当てはまる正解がなくとも、その人に合う正解は存在するわけで、それを見つけていくことがとても重要です。これからの議論から、様々な意見が出てきて、その中から読者の方々が「自分に合いそうだ、良さそうだ、やってみよう」と思える方法を見つけてほしいと思います。それが各人の悩みを解決すると信じています。そして、自分のゴルフのレベルを上げて、上達してほしい。そのことが、この講座を開こうと思った動機なのです。
 この「ゴルフ白熱教室」では第1回のアドレスから順番に、スイング、ショット、アプローチ、パット、さらにはコース攻略やスコアメイク、メンタルに関してまで、議論をしていきたいと考えています。もちろん、大局を踏まえた上で意見交換がされることを望んでいます。自由にお話ししていただき、皆さん一人ひとりがトライしてみたいと思う項目を選べるようになれば素晴らしいと思います。
高松 本当にそう思います。私はゴルフを始めて40年になりますが、最初は会社の先輩からゴルフを少し教えてもらい、その後は自己流でやっています。いつも思うことは、本や雑誌に書かれていることはあまりに多様だということです。何を信じてよいかわからなくなってしまうのです。
五十嵐 私はゴルフを始めて30年以上になります。始めるときに、どうせやるなら最初からレッスンプロに習ったほうがいいと思い、近くの練習場のプロに教わりました。しかし、いつまで経っても上手くならず、あるとき他の先生に習ってみるとまったく異なることを言うのです。それ以来、誰を信じてよいのかわからずに自分一人で練習しています。
――上達を望む多くのゴルファーが同じ気持ちだと思います。何が正解だかわからず、ゴルフが上手く行かず、思い悩んで先に進めなくなってしまう。しかし、そうなってしまうのは正解がただ一つであると思っているからでしょう。
 オリンピック金メダリストであり、その後全米女子オープンに三度も優勝したベーブ・ザハリアスは次のように言っています。「ゴルフにおいてはただ一つの方法というのはない。自分に最も効果のある方法を発見すればよいのだ」と。また、ゴルフ史家であり評論家のジェームズ・ロバートソンは「ゴルフスイングは指紋のようなものだ。2つとして同じものはなく、すべて独特の形をしている」と言っています。さらにヘンリー・ロングハーストは「ゴルフで唯一の欠点は面白すぎることであり、正解のないクイズだ」と言っています。
 どれもこれもゴルフの本質を突いていると思いませんか? ゴルフに正解はない。だからこそ難しいし、面白いわけです。歴史に名を残す人の話や上手な方々の話を聞いて、自分に合いそうなものを選び出しトライしてみる。そのトライ&エラーから自分にマッチするもの、良い結果が得られるものを探し出して行くことです。
 上手くいくものを見つけることは簡単ではないでしょう。しかし、「試すという行為そのものを楽しむこと」がとても大切です。そして、自分にとっての正解が摑めれば、それは大きな財産になります。ずっとあなたの助けになってくれると思います。

想定外のミスが出てしまうとパニックに陥る
向山 その通りだと思うのですが、自分に合うものがなかなかわからない。一つの問題に対してどのような試す方法があるのか、それがそもそもわかっていない。短絡的にこうかな、ああかなと、独りよがりでやっているような気がします。
面樽 ラウンド中に想定外のミスが出てしまうと、パニックになってしまいます。あれやこれや自分勝手に直そうとして、ますますミスが起きてしまう。こうなるともう頭の中は真っ白。スコアどころではなくなってしまいます。
――向山さんや面樽さんの意見に頷いてらっしゃる方が多いですね。まずは、ラウンド中はミスをしても慌てないことが大切ですよね。中部銀次郎さんは言っています。「ミスをしたら、一度大きく深呼吸する」と。心を落ち着かせて、次のショットは上手く行くと信じる。落ち着いて、いつものゆったりしたリズムでショットを放つ。スイングリズムを失うことが最も恐ろしいのです。緊張すると力が入って、早打ちしてしまうことはよくあります。動悸が速くなることも原因と言われています。スイングが悪かったとは決して思わないことです。よって、ラウンド中はスイングはいじらない。
 中部さんは次のようにも言っています。「見直すとすればアドレスだけ」と。アドレスした方向が悪くて、いつものスイングが変わってしまうことは多々あります。また、構えた方向が悪いと、ナイスショットしたのに目標とは違う方向に飛んでしまったり、打球が曲がったりしてしまうことも多いでしょう。ボールをよく見ようとして背中が丸くなり、頭が下がっていたためにスムーズなスイングができなくなることもあります。いつものアドレスができているかをチェックすることが、ラウンド中にできる唯一のことと考えるべきでしょう。
 戦争で片脚を失ってティーチングプロに転向したアーネスト・ジョーンズは、言っています。「ゴルフコースはスイングの欠点を発見するところ。練習場はスイングの欠点を直すところ」だと。ラウンドで起きたミスを深く考えるのは、ラウンド後の練習で行うということです。また、倉本昌弘プロは言っています。「試合を重ねていくうちにスイングがおかしくなっていく。ホールによって景観が異なり、ライも傾斜や芝など実に多様です。つまりショットは応用ばかりになって、次第に基本がどこかにいってしまう。だから、練習場ではひたすら基本の練習を繰り返すのだ」と。
喜瀬 自己流でいろいろやってみても、なかなか上手く行きません。根本の基礎ができていないからだと思ったりしますが、基本が何かがわかっていないこともあります。
――倉本プロが言われる基本の練習とは、アドレスを見直すことです。倉本プロのようなトッププロがアドレスをチェックするのかと驚く方もいらっしゃると思いますが、試合が重なって一番狂うのがアドレスであり、アドレスが狂ってしまうとスイングまで狂ってしまうということです。倉本プロだけでなく、試合後のプロたちの練習を見ると、アドレスの再チェックに重点が置かれていることがわかります。スティック2本を十字に置いたり、木片を十字にした手作りの道具でアドレスの方向をチェックしたりしている光景をよく見かけます。
 我々は、アドレスを疎かにしてスイングのことばかりに頭が行きがちです。しかし、アマチュアでもスイングより重要なのはアドレスです。目標に対して、いつもの自分のアドレスがとれているか。スタンスの方向だけでなく、上体の傾きであるスパインアングルや頭の位置や手の位置などもチェックする必要があると思います。倉本プロは平地の練習場では「背骨の向きが地面と垂直になっているか」のチェックを怠らないそうです。背骨の向きに関してはいろいろなご意見もあろうかと思います。
 このようなアドレスに関しての問題は、次の講座で皆さんと議論していきたいと考えています。どういうことをしっかりとチェックすれば、自分にとって良いアドレスなのかを見極めてほしいと思います。
京橋 長い間、ゴルフの基本とは何かがわからずにおりましたが、最近、ようやく少しつかめた気がします。しかし、ひとたびコースに出ればミスショットが多く出て、迷うことばかりで、自信をなくしてしまいます。
――私たちは、たとえ優秀なコーチがいても信頼しきれずに迷ってしまいます。自己流ならなおさら迷ってしまうものでしょう。バードングリップ、すなわちオーバーラッピンググリップで有名なハリー・バードンは「ゴルフとは朝に自信を与えると思えば、夕方には自信を失わせるゲームである」と言っています。
 ゴルフにのめり込んだ某大学の教授は、毎週日曜にプレーしています。週に何度も練習して問題点を克服し、それを日曜にコースで試す。その人は駅からコースまでバスで行くのですが、行きのバスの中では自分はもちろん、多くの人が期待で胸が膨らみ、元気一杯で口も滑らかです。ところが帰りのバスは彼も周りの人も一言も発さない。無言の静かなバスだそうです。練習した成果がほとんど出ず、意気消沈。ゴルフはかくも思い通りにならない難しいスポーツだと痛感する、と言っています。
 しかし、それがゴルフだと言ってもよいですよね。ゴルフに対して真剣に取り組んでいる人は誰もがそうした行きと帰りの経験を味わっていると思います。アメリカのスポーツライターであるアーサー・デイリーはこんな喩えを使っています。「ゴルフは恋愛のようだ。真剣にやらないとつまらない。真剣すぎるとがっくり来る」。先程の教授も同じ気持ちでしょう。では、どうすれば、いいと思いますか?
野方 うーん、そうですね。恋愛のことはわかりませんが、確かにのめり込んだ方が面白い。でも、僕たちアマチュアはプロではないのですから、生活がかかっているわけじゃない。よく言うじゃないですか。「命までは取られないよ」って。だったら、楽しむことが最も大切だと思うんです。楽しむというか、楽しいと思えるゴルフをするってことです。
面樽 同窓会のゴルフが最も楽しいです。仕事での付き合いゴルフは面白くない。ゴルフが好きなのに、心底笑えない。同窓会ではみんな大笑いです。何がそんなに楽しいのかわからないけれど、ミスをしても大笑い。これもゴルフだなあと思います。

ゴルフは楽しむもの、楽しいことが最も大切
――その通りだと思います。ボビー・ジョーンズは「人生の宝は財産ではなく友人。何人のゴルフ友達を得られたかだ」と言っています。ジョーンズは真剣に競技ゴルフに取り組み、優勝を目標としてからは食欲さえなくし、家族との団らんさえ犠牲にしてゴルフに賭けました。しかし、そうした選手生活に疲れ果ててしまうのです。
 そこで最後はグランドスラムを獲って潔く引退すると誓い、精魂を振り絞って目的を達成しました。現役を引退したあと、競技でしのぎを削ったゴルフ仲間たちと楽しいゴルフがしたい――。それがオーガスタGCを造った動機であり、マスターズを催した目的だったのです。笑顔の絶えないプライベートコンペ、それがマスターズだったのです。だから、プレーするゲストは招待制にしたし、賞金などなくてもよかった。
 とはいえ、ジョーンズも友人たちも世界の超一流選手です。楽しむにはそれなりのゴルフコースが必要です。楽しくやりがいのあるコース。決してプレーに苦しむことのない、技を競い合えるコース、それがオーガスタだったわけです。こうしたことがゴルフというゲームの真髄だと考えていたわけです。あくまでゴルフはplay、遊びだということです。
鎌倉 ゴルフは楽しみでやっているのに、ミスショットが何度も出ると嫌になってしまいます。思い悩み、苦しくなることもあります。でも、ジョーンズが言うように、ゴルフは遊びです。ストレスを溜めてどうするんだと思います。それにはミスショットも楽しまないと。ミスを笑い飛ばさないといけませんね。しかし、この「ゴルフ白熱教室」の議論で、私たちアマチュアの言うことなど、役に立つことがあるのでしょうか?
――大いにあります。倉本プロは「アマチュアから学ぶこともある」と言っていました。「練習場で前の打席の人のスイングに、自分にとって問題点を解決するヒントがあった」と言うのです。「その人はまったくわかっていなくて、自分が下手だと思っているかも知れないけれど、ある部分でとても素晴らしいことがある。それはプロになった自分が忘れていたことだったりする」と言っています。だから、アマチュアの意見も決して疎かにできません。自分と同じ悩みを克服した人もいるかもしれず、その方法が参考になることも大いにあるはずです。
 上級者はそうした悩みを克服したことが多いでしょうし、経験も豊富でしょう。トーナメントプロの中にはこれまでの人生で一度も100を叩いたことがないという人もいますが、そういった人たちの方法にも私たちが参考になることがたくさんあります。もちろん、レッスンプロやインストラクターは多くのアマチュアを指導し、ビギナーを上級者に上達させてきたこともあるでしょうから学ぶことは多いはずです。
 この教室では、そうしたレッスンプロやインストラクターの方々にも特別に参加していただいています。私のこれまで出会った人の中で、考え方や教え方が柔軟で、生徒たちの個性を重んじて、自分のゴルフ理論に決してはめ込もうとしない方々です。皆さんの意見に耳を傾けてくれると共に、きっと議論を盛り上げてくれると思います。
 大前提は、「ゴルフには万人に共通する正解は存在しない、存在するのはその人の正解だけだ」というものです。それを探し出す楽しさを味わってほしいと私は思います。それが即ち、上達したいゴルファーにとっての楽しさだと思うからです。そして、ここで参考になったことを基に、少しでもスコアを良くしてほしい。平均ストロークを縮めて、ハンデキャップを減らしてほしいと思います。ヘンリー・ロングハーストは言っています。「ゴルフを見れば見るほど人生を思う。人生を見れば見るほどゴルフを思う」
 枝葉末節にとらわれず、大局を見失わずに、議論を掘り下げていきましょう。
 さあ、いよいよ次回から具体的な項目に入りましょう。まずはゴルフの基本である、セットアップです。
 

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