まちづくりの根底にある「楽しさ」
地域の「あたりまえ」がつぎつぎとくずれている。たとえば、小学校の統廃合である。わたしが活動している岩手県大槌町では、震災後、4つの小学校がひとつに統合された。こうしたことは、大槌にかぎらず、東京や大阪のような大都市でも起きている。地域の意識は、学校に通いはじめることで育まれるが、その拠点がくずれているのだ。
あたりまえの日常がなくなる。それはたいへん危機的なことだ。学校があること、町内会があること、お父さんがはたらいていること——それらは、あたりまえすぎて、「なぜ、それが存在しているのか」とは考えない。だけど、いま、それがくずれているわけだから、それがなりたっていた経緯について、考えざるをえない。なぜ、ここに学校ができたのか。町内会はいつできて、だれに支えられてきたのか。なぜ、お父さんは、この地域ではたらくようになったのか。そうしたことを考えざるをえないのだ。
「まちづくり論」や「地域社会論」を開講すると、そうした疑問をもつ若者たちが集う。わたしは、地域のことをどうやって調べればよいか、そのスキルをおしえる。こうして、学生たちは、自分の地域の強みと弱みを知る。
地域の強みと弱みを知った学生は、なんとか弱みを克服して(あるいは強みを伸ばして)、地域を元気にしたい、と考える。だが、わたしは、そこで返答にこまっていた。というのも、まちづくりの仕事をするには、建築や都市計画の分野に進むのが、近道だからだ。
山崎亮さんの新著は、『ふるさとを元気にする仕事』というタイトルである。読んでみると、工学系のことよりも、社会科学のことばかり書かれている。おそらく、社会学をまなんだ学生は、この本から勇気をもらうだろう。わたしもまちづくりの仕事につけるのではないか、と。
山崎さんの本以外にも、まちづくりや地域おこしの本は、腐るほどある。だが、そのたいていは、成功事例ばかり述べられている。そこには、失敗が削除されているし、また、どういったプロが関わっているかが、書かれていない。
若者が知りたがっているのは、成功事例ではない。地域をベースに活動するときに必要なスキルはなにか。そのスキルはどうやったら身につくのか。そして、じっさいに地域にかかわるときの心構えはなにか。そうしたことである。
この本は、それらの疑問に正面から答えていると思う。山崎さんがなぜ地域のことに深く関わるようになったかということからはじめて、日々、どのような活動をしているか、どういった働き方をしているのか、山崎さんが設立したStudio-Lがなぜ個人事業主の集団なのか。それら一つひとつを懇切丁寧に説明している。
最後に。
わたしは、まちづくりを説明するときに、「エンパワーメント」と「インヴォルメント」というふたつの概念を紹介する。
「エンパワーメント」については、山崎さんの本のなかでも紹介されている。それは、力を引き出すこと、という意味である。どうすれば、人の力を引き出せるのか、地域の力を引き出せるのか。まちづくりにおいてとても大切なことだ。
ただ、わたしは山崎さんを見ていて、「インヴォルブメント」のほうを思い出す。その意味は、ざっくりいえば、巻き込む力、である。山崎さんの本は、楽しさがあって、読んでいて、自然と引きこまれる。山崎さん自身も書いているように、まちづくりの根底にあるのは、楽しさ、である。眉間にしわを寄せて考えこむ前に、ピンチはチャンスの精神で、山崎さんの巻き込み力に感化されてみたい。