「哲学」とはそもそも、自分の置かれた時代や場所を超越した普遍的な射程を有するものであるわけですが、とはいえそれをより深く理解するには、そうした時代や場所とけっして遊離して考えることはできません。とくに現代フランス哲学の場合はそのことが顕著だと思います。そのため、適宜コラムにて、その時代の特徴的な出来事に触れています。
英米圏の分析哲学と言われる分野では、むしろ概念や論理を重視し、できるだけ哲学者本人の置かれた場所や経験を重視しないようにしようとする傾向があると思います(もちろん例外もあるでしょう)。それはそれでとても魅力的なのですが、それに対し現代フランス哲学の論者たちは、概念や論理を武器にしつつも、自分自身の置かれた「状況」や、自分自身がそのなかで被る「経験」をきわめて重視する傾向があるように思います。そもそも第二次世界大戦以降のフランス社会が、さまざまな出来事を経て、さまざまに変容してきました(そしてときには哲学者自身がそうした変容にも関わっていることすらあります)。むしろ、こうした状況や経験への結びつきにこそ現代フランス哲学の一つの特徴があると言ってもよいでしょう。
もちろん、そうした時代も場所も、本書を手にとる読者のものとは異なるでしょう。しかし、現代のフランスの哲学者たちがどのように自分たちの時代と格闘し、自分たちの哲学を提示しようとしたのか。これを知ることは、これから私たち自身が今度は自らの時代のなかでさまざまなことを考える上で後押しとなるように思います。
1968年5月にパリで起こった「革命」を起点に、若者や政治を巻き込み、時代や経験に深く根ざす思想運動として発展した現代フランス哲学。資本主義の矛盾や構造的な抑圧がさまざまに露呈する1980年代以降、それは大きな変化を遂げました。実存主義、構造主義、ポスト構造主義を経て、政治や宗教、労働社会、ジェンダー/フェミニズム、科学と技術、エコロジーをめぐる諸思想に至るまで。フーコー、ドゥルーズ、デリダら巨星なき後も脈々とつづく、強靭な思想の流れを一望する『現代フランス哲学』より、「はじめに」を公開します。