老いのくらしを変えるたのしい切り紙

切り紙は国境を越える
『老いのくらしを変えるたのしい切り紙』ワークショップレポート@台湾

『老爸的剪紙課:女兒給父親最深情的手作習題』(出版:積木文化)
 2012年刊行の井上由季子さんの『老いのくらしを変えるたのしい切り紙』の中国語繁体字版が、先日、台湾の出版社・積木文化より刊行されました!(台湾でのタイトルは『老爸的剪紙課:女兒給父親最深情的手作習題』)
 これを記念して、台湾で開催された「井上由季子的剪紙交流」展(2017年3月25日~4月2日)のイベントとして、3月25、26日の2日間、来場者が実際に切り紙に挑戦し、自分だけのカレンダーを作るワークショップが行われました。25日の回に、筑摩書房の社員2名も参加しましたので、その様子をご報告します。

 台北市内の印刷工房RETRO印刷JAMさんで開催された「井上由季子的剪紙交流」展。井上由季子さんのお父様と義理のお母様の切り紙作品が展示されるなかで(560枚の富士山、圧巻!)行われたワークショップの1日めは14名が展示会場に集まりました。まず、参考として日本でのワークショップの作品を拝見。12か月分のカレンダーの台紙が配られ、そこに自由に切った色紙を貼りつけていきます。切り紙に使う素材は、古い雑誌や展覧会のチラシ、いろんなお店の包装紙、そして漆が塗られた和紙など。参加者が思い思いに選んで(早い者勝ち!)、制作がスタートします。

「井上由季子的剪紙交流」展会場風景(写真:モーネ工房)

 

 驚いたのは、台湾のみなさんが「えー、どうしよう」「あなた何にする?」とか一切言わず、おもむろに紙にハサミを入れ始めたことです! 迷いがない。早い。中国・台湾には、伝統工芸として「剪紙」という切り紙がありますが、まさかみなさん、切り紙に慣れていらっしゃるの? 
 予定時間を少し過ぎたところでタイムアップ。全員が一人ずつ前に出て、作品をみんなに見せながら製作意図などを説明し、井上さんにコメントをいただきます。ここでまた驚きました。みなさんものすごく素敵な作品を作られているのです。数字を大胆にデザインしたり、「自分の好きなもの」を並べたり、熊が季節のモチーフを身につけていたり……。そして説明も、非常に明快で堂々としていらっしゃる。聞けば、参加者の中には、ふだんからイラストを描いたりデザインしたりという方が何人も。恐るべし台湾。小学生の少年も参加していましたが、この1年の自分の思い出の場面を再現した、と解説。作品も話すのも元気いっぱいだ。

ワークショップ作品発表の様子

 

 何か作るのがうれしくて楽しくてたまらない、という空気が、会場内に満ち満ちていたように思います。また、一人ずつに贈られる井上さんのコメントがやさしいのです。作品の本質をさくっと取り出して、ぷーっとふくらまして風船にして飛ばしてくださる……という感じ。この最後の発表の場が、ワークショップではとても重要なんだなあ、と思いました(筑摩書房のNは季節の花、Mは季節のお菓子の切り紙でした。歓迎してくださった台湾のみなさん、ありがとうございます!)。

『老いのくらしを変えるたのしい切り紙』は、井上由季子さんが、ご自身のお父様と義理のお母様に切り紙を提案するところから始まります。ガンコでアートに興味なんてないお父様。井上さんが美術の学校に進むことに反対だったこともあり、父娘にはわだかまりが。ところが、切り紙という娘から父への「課題」を通じて、二人の気持ちはかよいあうようになります。ここに書かれているのは、娘が父にプレゼントした、何かに夢中になれる晩年、という幸福そのものの記録です。心があたたかくなって、ちょっと泣いちゃう本です。

 はじめて台湾でこの本を紹介した時、各出版社のみなさん「切り紙のハウツー本ですか?」とおっしゃいました。老後の生きがいを考える本なんです、と説明すると、「台湾の年寄りはテレビを見ているだけだしー」とつれないお返事でした。そんな中、「これはいい本だ」とすぐ言ってくださったのが、積木文化の方でした。それからわずか数年の間に、台湾でも高齢化社会が問題として浮上してきているように感じます。「老いに関する本はありませんか」「老後をいきいきと過ごすための本はありませんか」と聞かれることが増えました。井上由季子さんの新刊『大切な人が病気になったとき、何ができるか考えてみました』も、すでにいくつかの台湾の出版社から問い合わせが来ています。

『老いのくらしを変えるたのしい切り紙』

『大切な人が病気になったとき、何ができるか考えてみました』

RETRO印刷JAM 

モーネ工房(ワークショップ報告のページに飛びます)

(筑摩書房M:記)

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