花の命はノー・フューチャー

未来をふみたおせ!

『花の命はNO FUTURE――DELUXE EDITION』刊行記念対談

『花の命はノー・フューチャーーーDELUXE EDITION』(ブレイディみかこ著、ちくま文庫、2017年6月)の刊行を記念し、ブレイディさんに政治学者の栗原康さんと対談していただきました。8月24日下北沢のB&Bにて。前編、後編のうちの前編です。抱腹絶倒な対談から、国の借金に束縛されない、反緊縮の未来の可能性が見えてきます。

■世にいう「鏡月事件」とは?

ブレイディ 年々、日本に帰ってくる度に、何とうまく表現したらいいのかわからないけど、ちっちゃく、ちっちゃくなっているような気がするんですよ。なんか、栗原さんとか煽(あお)っているじゃないですか。

栗原 はい。がんばって煽っています(笑)。

ブレイディ アハハハ。でも、煽り甲斐はありますか?

栗原 特に反応はないです(笑)。でも、煽ること自体が大事ですからね。でも、こっちが煽られたというか、しりあいの人からきいた面白い話がいくつかあって、たとえば、去年、ブレイディさんがいらしたときは、平井玄さんと一緒にトークイベントをして、たしかキャバクラユニオンの話がでましたよね。キャバクラの人たちの労働問題、やるとヤクザ者が出てきちゃうから、交渉してやりくりするのがめちゃくちゃ大変なんだと。その関連で、おもしろい話をひとつ聞いて。どうも、キャバクラでセクハラに遭った女性がいたらしいんですね。毎回、同じ客にセクハラされるから、それをやめさせてくれとお店に訴えかけたら、「おまえ、それが仕事だぞ」みたいな感じで全く取り合ってくれないわけです。じゃあ、組合を入れて交渉しようということで、キャバクラユニオンで経営者と交渉する日にちを決めて、待ち合わせ場所に行ったら、その女性が来なかったらしいんですよ。それで、数日したら組合にその女性から電話があった。「すみません、行けなくて」「どうしたんですか、心配していました」と言ったら、「いや、実はパクられていました」と。「どうしたの?」って聞いたところ、行く前の日にまたセクハラされて、もう交渉とかじゃなくて、自然と手が出たらしいんですよ。サッと鏡月という焼酎をつかんで、パリーンと相手の頭をかち割っちゃった(笑)。組合の人たちはそれを聞いて、「おおお、すげえ」みたいな(笑)。それを「鏡月事件」と言うらしいです(笑)。

 もちろん、ヤクザ者と交渉していくのも大事だとは思いますが、人が本当に怒りを覚えて何かパッとやるときって、我が身顧みずで動いちゃうわけですからね。そういう動きが、ほんとキャバクラとか、アンダークラスって言ってもいいと思いますが、そういうところからパッと出てきちゃうというのは、すごく魅力的で可能性があると思います。

ブレイディ 確かに。すごいですね(笑)。そういえば、平井さんも、あそこの子たちの動きには突破口のようなものを感じる、と仰ってました。キャバクラユニオンについては『THIS IS JAPAN』という本で書いていますが、すごく面白いというか、私が見に行った地域では、黒服との戦いも何とも言えなかった。本当だったら共に戦わなきゃいけない人たちが、ものすごくお互いをいがみ合うような感じで、労働者対雇用主じゃないんですよね。

栗原 労働者対労働者という。

ブレイディ それはすごく独特なものを感じて。

栗原 あの辺は何とも言えないですよね。黒服を着た呼び子のアンチャンたちも、経済的には、よっぽど苦しい思いをしながらやっている人だと思うし、いろいろ本当は通じるところもあるはずなんですよね。たまに歌舞伎町とか歩いていたりすると、黒服の人たちが会議とかやってるんですよ。警察対応で、「ここでこうやれば捕まらない」とか、「ここにレポをたてておこう」とか言っていて、ありゃっ、左翼と同じことをやっているぞと思ったり(笑)。皮膚感覚として、反社会、反警察でもあると思うし。でもそういう日ごろの恨みつらみが、闘おうとする労働者のほうにむかってきちゃう。ブレイディさんの『THIS IS JAPAN』を読んだときに、そんなことを考えたりしていました。

ブレイディ すごくあれは不思議な光景だった。ホームレス状態の方がいらして、その人まで一緒になって「働け!」と言っている、なんかこう、あまりにシュールだからおかしいっちゃおかしいんだけど、笑えないみたいな。

栗原 しかも、「おまえーっ」とか言いたくないですからね。

ブレイディ すごい何とも言えない光景を見たなという感じでしたけどね。あれがある意味、日本の労働の実情を要約してるのかなって思っちゃうような……。でも、日本のことって、なかなか書きづらいですよね。しみじみ言っちゃいけないですけど、なかなか難しくなってきてますね。

栗原 イギリスだと、あまりそういうことはないんですか。

ブレイディ イギリスは性風俗的なものはあるけれど、キャバクラとかはないですよね。「なんで酒飲むのに、女の子と話してお金払わなきゃいけないんだ」と。

栗原 そりゃそうですよね~。

ブレイディ べつにパブで女の子を見つけて話しかければいいんだから、わざわざ女の子としゃべるためにお金を払う意味がわからないらしいですね。

栗原 いま言われて、もっともだと思ってきました。

ブレイディ あのお金を払っているのがどういう意味なのかなと感じますね。お金を払っているから何を言ってもいいとか、ちょっと触ってもいいとか。そういう、ふだんできないことを大っぴらにやるための料金なのかなと。

栗原 セクハラしてもいい。それが仕事でしょうと。

ブレイディ そうなっちゃうんですよね、結局はね。私も水商売やってたから、そう感じることはありました。焼酎で頭かち割りたくなるような悪質な客には出会いませんでしたけどね(笑)。栗原さんとか、キャバクラは行ったことあるんですか。

栗原 僕はないんですよね~。まあ、金がなかっただけかもしれないですけど(笑)。

ブレイディ あったら行きたいと思う?

栗原 どうかな、お金をもったことがないのでわかんないです。いきなりヒョロッと行ったりするかもしれないですけど(笑)。

ブレイディ 突いちゃいけないところを、いま突きましたか(笑)。

後編は10月6日(金)の更新予定です。

2017年9月29日更新

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ブレイディ みかこ(ぶれいでぃ みかこ)

ブレイディ みかこ

ライター、コラムニスト。2007年から保育士。1965年福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。著書に『アナキズム・イン・ザ・UK』『ザ・レフト──UK左翼セレブ列伝』(以上、Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング──地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』(太田出版)、『子供たちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)がある。

栗原 康(くりはら やすし)

栗原 康

1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、大杉栄伝―永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位)、『はたらかないで、たらふく食べたい―「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』 (角川新書)、『村に火をつけ,白痴になれ―伊藤野枝伝』(岩波書店)などがある。

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