花の命はノー・フューチャー

後編 未来をふみたおせ!

『花の命はNO FUTURE――DELUXE EDITION』刊行記念対談

後編です。今回は、アナーキーな愛で、あなたの心に火を付けます。 『花の命はノー・フューチャーーーDELUXE EDITION』(ブレイディみかこ著、ちくま文庫、2017年6月)の刊行を記念し、ブレイディさんに政治学者の栗原康さんと対談していただきました。8月24日下北沢のB&Bにて。

 

■キリストはやたら反資本主義

ブレイディ そうですよね。それをキリスト教では、それこそが愛なのだと。いわゆる愛は無償じゃないですか。そうか。キリスト教とアナキズムって、近いのかもしれないですね。だから、いまの欧州的な感覚で言えば、全く逆というか……。

栗原 一番、それをやるヤツが、ダメなヤツと言われますからね。

ブレイディ だって、セックス・ピストルズだって、「I am an anarchist(俺はアナキスト)」だけど、その前に「I am an anti-Christ(俺は反キリスト)」と言い放っているわけですから、キリスト教でアナキズムというのはおかしいんでしょうけれども。私はキリストという人をなぜ好きかというと、一番すごい社会運動家だと思うからなんです。だからこそ、キリストが作られたフィクショナルな人物像だとしても、本当にそういうモデルになる人がいたにしても、どちらにしてもすごい人……。

栗原 キリストはヤバいですよね。

ブレイディ ヤバいでしょう? 市場を「こんなところで商売するな」と言って破壊したり、やたら反資本主義だし(笑)。やることがすごいんですよね。

栗原 「貧乏は幸いなり」って、貧乏に開き直れという話ですからね。

ブレイディ そう、まさに。金持ちほど天国に入れないとかね。天国に金持ちが入るのは、ラクダが針の穴を通るより難しいって、どんな難しさなんだという話ですけど、そういうことを言った人ですからね。やっぱ、普通の感覚でいったら、「えっ?」というか、あり得ないことを言った人ですよね。新約聖書じたいが旧約聖書の逆張りだったとはいえ、それにしたってあの人物像は、カウンターという常識的範囲をはるかに超えて、突き抜け方が尋常じゃない。

 

■キリストはアナキスト?

栗原 最近、『福音と世界』って雑誌で、なぜかキリストについてちょっとだけ書いたんですけど、もともとユダヤ教で「アーメン」という言葉があるんですよね。ただ、アーメンという言葉は、司祭がすごくいいことを言ったりすると、聴衆が一斉にみんなで「アーメン」と言う。要するに、ありがたい教えを上から授けられて、それにみんなで「従います」っていうのが「アーメン」の意味だったんですけど、イエスはそれをひっくり返してしまう。聴衆を前にしたら、はじめから「アメ、アメ、アーメンー!」って叫び始めるんですよ。それで、ひたすら自分の言いたいことをバシバシッと言って、帰っていく。

 これ、やろうとしているのは、「俺は従わねえぞ」ということを最初から宣言しているみたいなことですよね。そういうのを考えてみると、すげえ反権威主義だなと思ったりしましてね。もともと、会話のルールみたいなものがあったとしたら、そこに予想不可能な会話の形式みたいなものを、いきなりぶち込んでくるんですよね。そういうことをやるイエスって、やっぱりアナキストですよね。

ブレイディ イエス・キリストは、アナキストか~。なんか私、自分の人生がいま繋がったような気がすごくした。私もずっと昔から教会はけっこうどうでもいいんですけれども、キリストだけは捨てられない、捨てきれない部分があるんですよ。それ、めっちゃ格好悪いし、あんまり認めたくないじゃないですか。だから、栗原さんによって救われた(笑)。

栗原 ありがとうございます(笑)。

2017年10月6日更新

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ブレイディ みかこ(ぶれいでぃ みかこ)

ブレイディ みかこ

ライター・コラムニスト。一九六五年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、一九九六年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。二〇一七年、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)で第十六回新潮ドキュメント賞受賞。二〇一八年、同作で第二回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補。二〇一九年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第 七十三回毎日出版文化賞特別賞受賞、第二回 Yahoo! ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞、第七回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)受賞。 著書は他に、『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』(ちくま文庫)、『アナキズム・イン・ザ・UK』(Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング――地べたから のポリティカル・レポート』(岩波書店)、『 THIS IS JAPAN ――英国保育士が見た日本』(新潮文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『労働者階級の反乱――地べたから見た英国EU離脱』(光文社新書)、『女たちのテロル』(岩波書店)などがある

栗原 康(くりはら やすし)

栗原 康

1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、大杉栄伝―永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位)、『はたらかないで、たらふく食べたい―「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』 (角川新書)、『村に火をつけ,白痴になれ―伊藤野枝伝』(岩波書店)などがある。

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