人生がときめく知の技法

第24回 ストアの自然学(その二)

 

自然の原理

吉川 目下、ストア派哲学が世界をどう捉えているか、検討しているところでした。

山本 大きくは論理学、自然学、倫理学という三つの分野に区別されるというわけで、自然学について検討中。

吉川 前回は、ストア派の自然学でいう自然(ピュシス)とは、理性(ロゴス)をそなえた神的な存在であることを確認したね。

山本 ストア派においては、自然、神、理性はほとんど同義語のように使われている。

吉川 スピノザと同じ、というかスピノザよりずっと早い「神すなわち自然」なんだね。

山本 そうそう、ストア派は紀元前3世紀から紀元後2世紀くらいで、スピノザは17世紀の人だものね。というわけで、今回はその自然学の内実に迫ろうと思います。

吉川 とはいえ、自然学の全体をくまなく検討するのはいくらなんでも無理だよね。

山本 うん。ここでは、ストア派の自然学における自然(ピュシス)と理性(ロゴス)の関係に論点をしぼろうか。

吉川 そうしよう。

山本 そもそも自然が理性をそなえているとは、どういう意味だろうか?

吉川 うーん。うっかり自然=神を擬人化して考えてしまいそうだけど、前回確認したのは、ストア派の神はキリスト教のような人格神ではないということだよね。

山本 うん。

吉川 なにかこう、原理のようなものだろうか。

山本 そう。ストア派は、自然はふたつの原理によって成り立っていると考えた。

吉川 ふむ。

山本 つまり、受動的原理と能動的原理。

吉川 具体的にはどういうことだろう?

山本 受動的原理は、世界のさまざまなものの素材となる物質に体現されている。

吉川 アリストテレスの「質料」みたいなものだね。

山本 そう、ストア派もアリストテレスから質料の概念を借りてきていると言われているよ。

吉川 では、能動的原理は?

山本 それを体現するものこそ、神。

吉川 なるほど。

山本 理性にしたがって質料にかたちを与えるのが、能動的原理である神の役割というわけだ。

吉川 へえ。でも、ものは神によってかたちを与えられているということが、どうしてわかるんだろう。

山本 ストア派の自然学では、世界の能動的原理である神は、プネウマという形であらわれると考えている。

吉川 プネウマ?

山本 「息」とか「気息」と訳されるギリシア語だよ。

吉川 へえ。

山本 初期ストア派の哲学者たちは、この概念を当時の生理学から借りてきたようだね。ものをかたちづくる生気とか精気、あるいは生命力のようなものと考えられている。

吉川 ものがそれぞれのかたちを保っているのは、そこにプネウマがあるからであり、そのプネウマが神の原理でありロゴスの運び手であるというわけだね。

 

神は万物に宿る

山本 ところで、質料は、そのままではなにものでもない無規定な物質と想定されているんだけど、そんなもの見たことある?

吉川 なんだかスティーヴン・キングとか諸星大二郎の作品に出てきそうだけど、実際には見たことがないかもしれないなあ。

山本 だよね。

吉川 いまわれわれの目の前にあるのも、ペンであったりモレスキンノートであったりMacBookであったりと、なんらかのかたちを与えられた物体ばかりだね。

山本 実際には無規定な物質は存在しない。逆にいえば、すべてのものは神によってなんらかのかたちを与えられている。

吉川 すると、自然を構成するすべてのものは、受動的原理たる質料と能動的原理たる神/理性の混合物ということだろうか。

山本 そう、すべてものに大なり小なり神/理性が混ざっている、という見立て。

吉川 まさに汎神論だ。万物に神が宿るとはこのことだね。神様こんにちは(MacBookに向かって)。

山本 こんにちは神様(モレスキンのノートに向かって)。って、ストア派の神は人格神じゃないんだってばよ。

吉川 失敬失敬。

山本 さて、自然というものに、そんなふうに神/理性が宿っているとすると、自然学は論理学や神学とも切り離せないということになるね。

吉川 そうだね。しかも、ストア哲学のキャッチフレーズが「自然と一致して生きる」だったことを考えれば、倫理学とも切り離せない。

山本 そう。ストア哲学において、論理学と自然学は、倫理学のための基礎を準備するものだと考えられていた。

吉川 以前でてきた畑の比喩でいえば、論理学が塀、自然学が土壌ということだったね。

山本 次回からはいよいよ倫理学に進んでいこう。

吉川 よしきた。

 

 

 

 

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