ちくま新書

歴史に苦悩するフランスのタブーを歩く

華やかに語られがちなフランスですが、二度にわたる世界大戦やアルジェリア戦争の悲惨な歴史の傷はいまも癒えません。理想と現実に苦しむフランスの現場を歩き、生存者の証言を集めたルポルタージュ『フランス現代史 隠された記憶――戦争のタブーを追跡する』の冒頭を公開します。

 フランスと聞いて、日本人がまず思い浮かべるのは、ワイン、美食、パリコレ、シャンソン、恋愛映画などだろう。フランスは日本で華やかな印象で語られることが多い。だが、本書で筆者がたどるのは、悩めるフランスの足跡だ。時代で言うと、第一次世界大戦から第二次世界大戦、アルジェリア戦争を経て、これを書き終えた二一世紀初頭の現在までの期間だ。フランスは、これら三つの戦争に苦しみ、現在も悩んでいる。そして苦しみが深いほど、人々は語りたがらない。

第一次世界大戦開戦100年を記念するパリの軍事パレードで、大戦当時の軍服を着用したフランス軍兵士=2014年7月14日、筆者撮影

 筆者がパリ特派員としてフランスで過ごした二〇一一年から二〇一五年の間には、第一次世界大戦開戦一〇〇年や、第二次世界大戦終戦七〇年などの節目の年があり、記念行事がフランス各地で開かれた。筆者は、通常の外交や内政の取材の合間に、この地で戦争を経験した人たちの証言を聞くため各地を歩いた。本書は、その時出会った人々の肉声をまとめたものだ(年齢や肩書きは取材時。原則として敬称を略す)。アウシュヴィッツ強制収容所からの生還者、ノルマンディ上陸作戦に参加した元兵士、諜報活動を行った元レジスタンスの活動家、ナチスに破壊された村で、戦後、ドイツとの和解に半生をかけた村長、日本との不思議な縁がある元軍人、アルジェリア戦争でフランスのために戦い、裏切られた現地兵などが登場する。第二次大戦を生き残った人たちの多くは九〇歳を超え、第一次大戦にいたっては生存者もいない。それでも彼らのメッセージは筆者に明確に伝わって来る。その一つは、現在、私たちがあたりまえに思っている今の平和の大切さと、そこに潜む脆さだ。

ケルフォトラス墓地の一角に日本人船員の墓がある(第二章)著者撮影

 フランスは、華やかな表情の裏で、悲しみを背負っている。そして悲哀があるからこそ魅力がある。普通の観光とは少し趣が異なる、フランスの歴史を巡る旅に招待したい。

【目次より】

【第一部】第一次世界大戦

第一章 打ち込まれた一四億発――不発弾処理/第二章 永田丸の記憶――同盟国だった日本とフランス/第三章 反戦の英雄――理想となったジャン・ジョレス

【第二部】第二次世界大戦

第四章 ユダヤ人移送の十字架――背負い続ける罪/第五章 「ヴィシー政権」――対独協力の記憶/第六章 悲劇からの出発――オラドゥール村の葛藤/第七章 レジスタンスとフランス――心の拠り所/第八章 ドゴール・フランス・アルジェリア――残った遺恨

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