世の中ラボ

【第150回】
統一教会と自民党、その恐るべき癒着の構造

ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2022年11月号より転載。

 安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への批判が高まっている。最大の焦点は、強引な献金の強要、そして政治家との長年にわたる癒着である。
 統一教会がもっとも耳目を集めたのは、合同結婚式が大きく報道された1992年だった。霊感商法が話題になったのもこのころだ。翌93年には合同結婚式に参加した元五輪選手の脱会などが話題になるも、九四年には報道も鎮火。95年にはオウム真理教事件が起きて、統一教会問題は世間から忘れられてしまった。
 その当時からすでに三〇年の月日がすぎた。思いがけない形で、旧統一教会の問題が再燃した格好である。
 この問題はしかし、放置できない要素を多々含んでいる。9月30日、自民党は、旧統一教会や関連団体と関係があった同党の国会議員を168人から12人追加して180人と発表した。かかわり方の濃淡はあるにせよ、岸田内閣は大臣8人、副大臣11人、政務官12人が教団と関係があったことを認めており、とりわけ教団のイベントに何度も登壇して、教祖礼賛演説を繰り出してきた山際大志郎経済再生大臣の言動は常軌を逸している。細田博之衆院議長も、萩生田光一自民党政調会長もだ。10月3日に召集された臨時国会でも当然、この件は大きな焦点になろう。
 両者の関係とは、はたしてどんなものだったのか。このたびの騒ぎを機に出版された、話題の新刊書を読んでみた(以下、同教団の諸問題を扱う論者の慣習にしたがって「統一教会」と表記)。

70年代から政治に食い込んでいた統一教会
 有田芳生『改訂新版 統一教会とは何か』はこの問題を四〇年追ってきた著者による、いわば統一教会問題の入門編。1992年に出版された本に加筆された増補版だが、いまも古びていない。
 95年のオウム真理教事件以降、忘れられた統一教会。その間の事情を、有田は〈オウム真理教が一連の事件を引き起こして自爆したのとは対照的に、統一教会は地道に社会や国会議員へと浸透していった〉と書く。同教会はつまり、成功したのである。
 統一教会が、教祖の文鮮明(1920生まれ)によって韓国で創設されたのは1954年。日本では58年に布教がはじまり、64年、東京都によって宗教法人の認証を受けた。
 政治とのかかわりができたのは67年以降である。68年、韓国に続き日本で結成された国際勝共連合(統一教会系の政治団体)の名誉会長は笹川良一。岸信介も発起人に名を連ねた。七四年に大々的に開かれた会合には福田赳夫大蔵大臣(当時)や安倍晋太郎ら衆参議員40人が出席し、演壇に立った福田は〈アジアに偉大なる指導者現る。その名は文鮮明〉とブチ上げた。
 70年代〜80年代に学生時代を送った人なら、統一教会の学生組織「原理研」の存在をみな知っているだろう。が、政界と教団の癒着はこの時代から想像以上に進んでおり、今日の山際・萩生田・細田らと同じような「教団ヨイショ演説」が、もっと大物の政治家によって行われていたわけである。
 それだけではない。80年代には選挙活動支援や議員秘書に信者を送り込む手法も常態化しており、1990年の韓国の教団関係雑誌に載ったインタビューで、韓国の教団幹部は次のように語っている。〈日本の今度の選挙だけでも、私たちが推してあげたのが、108議席当選しました。今回、私たちが援助しなければ、無所属で出てきた中曾根なんか吹けば飛んだよ。また派閥で見れば、中曾根派は62議席にもなって、安倍派は83議席です。(略)この2派閥を合わせるといくつになりますか? それで安倍と中曾根は、原理の御言を聞け! と言ったら聞きはじめました〉。
 ここでいう安倍とは安倍晋太郎のことである。韓国の信者向けの雑誌だから多少「盛っている」としても、たいした自信だ。
 実際、右の幹部の話はまるっきりデタラメともいえない。
 元信者や元自民党議員の証言を元に、有田は国際勝共連合が「勝共推進議員」と呼ぶ議員の条件をあげている。
〈それは統一教会員たちが選挙活動を手弁当で支援する代わりに、/①統一教会の教義を学ぶため、韓国で開かれるセミナーに出席する/②国際勝共連合系の議員であることを認める/③統一教会を応援する/という条件を受け入れる議員たちのことだ〉。
 右の条件で90年に勝共連合が公表した「勝共推進議員」の現職は、じつに105人(巻末のリストには大臣経験者を含む有力議員がずらりと並ぶ)。うち100人が93年の衆院選に立候補。19人が落選するも残りは当選。つまり2022年に露呈したのとそっくりな光景が、この時点で繰り広げられていたことになる。
 93年の衆院選とは、自民党が大敗し、非自民八党連立内閣ができた際の選挙である。有田によれば、この選挙は〈「勝共推進議員」がどれだけ当選するか〉が隠れた焦点だったという。知らなかった。いったいあの選挙は何だったのだろう。
 にしても文鮮明が、そうまでして他国の政治に食い込もうとしたのはなぜなのか。〈自分が影響力を与えることのできる政治家をその国の首相や大統領に据えればいいということだ〉と有田はいう。文鮮明は〈少なくとも7か国を操作できれば、われわれは全世界を掌握できる〉と豪語していた。七カ国とは米英仏独ソ、そして韓国と日本である。78年、米下院フレイザー委員会(米国と統一教会との関係などを調査する委員会)の報告書は、教祖の狙いは「世界的な『政教一致国家』を樹立すること」と断じている。なんという教団と、自民党は手を組んだのか。
 91年、文鮮明が北朝鮮を電撃訪問、金日成と会談するなど、教団は路線を変える。冷戦が終結、反共思想(勝共思想)の意味が薄れた国際情勢への対応である。当時は自民党の勢いも衰えはじめていた。反共とは別の部分で両者の利害が一致したのかもしれない。

安倍・菅コンビが仕切った2010年代
 鈴木エイト『自民党の統一教会汚染 ―― 追跡3000日』は、有田本の後の時代、主に安倍・菅政権時代を扱っている。
 統一教会に転機が訪れたのは2000年代後半。全国各地で霊感商法の摘発が続き、教団本部は組織防衛のため政治家対策の強化を図ったのだ。12年12月、第二次安倍政権が発足。奇しくも12年は9月に文鮮明が死去して後継者争いが起き、息子たちを追放した妻の韓鶴子が実権を握った年である。
 かくて統一教会と自民党中枢部は、以前にもまして緊密な関係を築くことになる。〈政権を奪取した安倍晋三は悲願である憲法改正の実現に向け、長期安定政権を目論んだ。そこで、組織票にとどまらず無尽蔵の人員を〝派遣〟してくれる使い勝手の良い教団を利用しない手はなかったのだろう〉と鈴木はいう。
 両者の関係が顕在化したのは13年7月の参院選だった。
 この選挙には安倍首相肝いりの候補者が立候補していた。比例区から立候補した北村経夫(山口県出身。現在も現職の参院議員)だ。彼を当選させるべく、教団は全面協力。選対部長によれば、仕切り役は官房長官の菅義偉という。組織票の見返りは「教団への警察の捜査を先送りにしてもらうこと」と「選挙後に当時の日本統一教会の会長(徳野英治)と安倍が会うこと」。
 教団組織票の上乗せで北村は初当選。その成果は翌14年の衆院選を経て15年に結実する。教団が1997年以来、再三働きかけてきた教団の名称変更を、文化庁が認証したのである。
 詳細は省くが、その後の教団と自民党のズブズブぶりは想像以上だ。六度の選挙への協力はもちろん、平時にも、SEALDsに対抗する学生組織(ユナイト)を発足させて安倍の政策擁護に努めるわ、教団の引率で米国に議員を外遊させるわ、あの手この手の大サービス。こうした活動への見返りは、教団と近しい議員の入閣であったり、集会への議員の参加や祝電だったりする。21年9月、統一教会関連団体の大会に安倍が送ったビデオメッセージは、中でも最大の見返りだったといえるだろう。
 このビデオ撮影に同行した国際勝共連合の会長(梶栗正義)は、岸信介から三代にわたる安倍との信頼関係を強調し、このように語ったという。〈この8年弱の政権下にあって6度の国政選挙において私たちが示した誠意というものもちゃんと本人(安倍晋三)が記憶していた。こういう背景がございました〉。
 あらためて確認すべきは、自民党と統一教会との関係は一朝一夕のものではないということ。そして安倍政権発足以来、教団との関係の中枢を担っていたのは安倍晋三その人だったことである。鈴木がいうように〈メディアの監視が働かないところで、政治家と統一教会は共存共栄関係を続けてきた〉のだ。
 地盤・看板・カバンのない候補者にとって、統一教会は無償で人を派遣してくれる便利な組織だった。一方、教団と信者の関係に目を転じれば、これは搾取の構造にほかならない。
 島田裕巳『新宗教 驚異の集金力』は、既成宗教と新宗教のちがいとして、〈新宗教の場合には、ほとんどの場合、専門の宗教家である聖職者は存在しない〉ことをあげている。教祖はいても、僧侶や牧師のような存在がいないため、すべての宗教活動(布教から商材販売や募金活動まで)は信者の無償の労働によって贖われる。選挙活動もそうした無償労働の一環だったわけで、自民党はつまり教団を介して彼ら信者を搾取し続けてきたのだともいえる。
 私がいま気になっているのは、有田本と鈴木本の両著から抜け落ちた2000年代前半、すなわち小泉政権時代の統一教会と政治の関係である。たとえば小泉訪朝に教団の関与はなかったのか。両者のあまりにも深い絆を知ると、すべてを疑りたくなってくる。

【この記事で紹介された本】

『改訂新版 統一教会とは何か』
有田芳生、大月書店、2022年、1650円(税込)

 

〈1992年 国際合同結婚式騒動からの「空白の30年」。統一教会と政治との関係はどのように変貌したのか?!〉(帯より)。92年の本に書き下ろしの章と新たな資料を加えた改定版。統一教会と保守政治のつながりを中心に、合同結婚式の裏側、元信者の手記なども収録。〈統一教会の行動パターンは、かつてもいまも基本的に変わりはない〉ことが確認できる戦慄の書。9月15日刊。

『自民党の統一教会汚染――追跡3000日』
鈴木エイト、小学館、2022年、1760円(税込)

 

〈圧力に屈せず追及し続けたジャーナリストがたどり着いた真実とは?/安倍元首相と教団、本当の関係〉(帯より)。02年から統一教会関係の取材をスタート。13年以後の政治と教団の関係を詳細にレポートする。取材の舞台裏など、煩雑な部分もあるが、執拗な追及の姿勢に脱帽。資料性も高い。10月1日刊。

『新宗教 驚異の集金力』
島田裕巳、ビジネス社、2022年、1650円(税込)

 

〈幹部は特別な存在なのか? 巧妙なシステムで活性化しているのは、どの宗教?〉(帯より)。〈旧統一教会は今でもパワーがあるのか〉と表紙に謳っているわりに統一教会の記述はわずか。幸福の科学、真如苑、生長の家、創価学会、天理教、立正佼成会などの経済活動にスポットを当てる。宗教学者の本にしては内容が薄いが、各宗教のビジネスモデルついては納得。10月16日刊。

PR誌ちくま2022年11月号