■キリストはやたら反資本主義
ブレイディ そうですよね。それをキリスト教では、それこそが愛なのだと。いわゆる愛は無償じゃないですか。そうか。キリスト教とアナキズムって、近いのかもしれないですね。だから、いまの欧州的な感覚で言えば、全く逆というか……。
栗原 一番、それをやるヤツが、ダメなヤツと言われますからね。
ブレイディ だって、セックス・ピストルズだって、「I am an anarchist(俺はアナキスト)」だけど、その前に「I am an anti-Christ(俺は反キリスト)」と言い放っているわけですから、キリスト教でアナキズムというのはおかしいんでしょうけれども。私はキリストという人をなぜ好きかというと、一番すごい社会運動家だと思うからなんです。だからこそ、キリストが作られたフィクショナルな人物像だとしても、本当にそういうモデルになる人がいたにしても、どちらにしてもすごい人……。
栗原 キリストはヤバいですよね。
ブレイディ ヤバいでしょう? 市場を「こんなところで商売するな」と言って破壊したり、やたら反資本主義だし(笑)。やることがすごいんですよね。
栗原 「貧乏は幸いなり」って、貧乏に開き直れという話ですからね。
ブレイディ そう、まさに。金持ちほど天国に入れないとかね。天国に金持ちが入るのは、ラクダが針の穴を通るより難しいって、どんな難しさなんだという話ですけど、そういうことを言った人ですからね。やっぱ、普通の感覚でいったら、「えっ?」というか、あり得ないことを言った人ですよね。新約聖書じたいが旧約聖書の逆張りだったとはいえ、それにしたってあの人物像は、カウンターという常識的範囲をはるかに超えて、突き抜け方が尋常じゃない。
■キリストはアナキスト?
栗原 最近、『福音と世界』って雑誌で、なぜかキリストについてちょっとだけ書いたんですけど、もともとユダヤ教で「アーメン」という言葉があるんですよね。ただ、アーメンという言葉は、司祭がすごくいいことを言ったりすると、聴衆が一斉にみんなで「アーメン」と言う。要するに、ありがたい教えを上から授けられて、それにみんなで「従います」っていうのが「アーメン」の意味だったんですけど、イエスはそれをひっくり返してしまう。聴衆を前にしたら、はじめから「アメ、アメ、アーメンー!」って叫び始めるんですよ。それで、ひたすら自分の言いたいことをバシバシッと言って、帰っていく。
これ、やろうとしているのは、「俺は従わねえぞ」ということを最初から宣言しているみたいなことですよね。そういうのを考えてみると、すげえ反権威主義だなと思ったりしましてね。もともと、会話のルールみたいなものがあったとしたら、そこに予想不可能な会話の形式みたいなものを、いきなりぶち込んでくるんですよね。そういうことをやるイエスって、やっぱりアナキストですよね。
ブレイディ イエス・キリストは、アナキストか~。なんか私、自分の人生がいま繋がったような気がすごくした。私もずっと昔から教会はけっこうどうでもいいんですけれども、キリストだけは捨てられない、捨てきれない部分があるんですよ。それ、めっちゃ格好悪いし、あんまり認めたくないじゃないですか。だから、栗原さんによって救われた(笑)。
栗原 ありがとうございます(笑)。