ちくま新書

なぜ日本史を学ぶのか

発売中の『やりなおし高校日本史』。私たちは意外と日本史で知らないことや誤解していることがたくさんあります。 より理解を深めるために、日本史のイメージが変わるこの1冊をぜひご覧くださいませ。 まずは「はじめに」をご覧ください。

「そういや日本に鉄砲が伝来した頃ってさ.」って感じで会話が始まるの、海外では普通なんだろう……ドイツの文化を知る前に、ぼくは日本について知る必要がありそうです。
 これは、かつての教え子で、今(二〇一八年)、ドイツ人工知能研究センター(DFKI)で研究員をしている石丸翔也氏(二十六歳)が、学生時代に初めて留学した時に書い
たブログの一節です。
 鉄砲を伝えたのはポルトガル人であり、その後、開始された彼らとの貿易は南蛮貿易とよばれていること。そして、間もなくフランシスコ・ザビエルが来て、日本にキリスト教を伝えたことは、よく知られています。
 でも、そもそもポルトガル人は、なぜ、地球の裏側まで来て、種子島に流れ着いたのでしょうか。そして、東洋の小さな島国との貿易に、どんな魅力があったのでしょう。
 ぼくは、一九九七年、「文部省日米国民交流若手教員米国派遣」の一期生として、アメリカのイリノイ州へ長期出張しました。四月に突然、「アメリカに行ってもらうことにな
った」と告げられ、六月に東京で文部省(現文部科学省)の方から、「目的は日本を伝えてもらうことです。初めての事業なので、授業のやり方は先生方に任せます」と言われまし
た。
 ぼくが赴任した学校は、シカゴの郊外にある、ヘミングウェイが卒業した高校でした。社会科の教室に飾られていたのは、奈良の大仏や金閣、姫路城、浮世絵など文化財の写真でした。
 当時、授業で接したアメリカの高校生がイメージしていた日本とは、ホンダのバイクやソニーの大型テレビといった先端技術か、空手や茶道などの伝統技能、そして金閣や浮世絵のようなエキセントリックな文化財でした。
 質問もこれらに関するものが多く、ぼく自身、少林寺拳法の有段者であることを利用して、授業の導入に武術ネタを使うこともありました。
 それが今、「そういや日本に鉄砲が伝来した頃ってさ.」と言ってもらえることは、とても良いことだと思います。でも、こちらも日本の歴史について知っておかなければなりません。
 この本は、高校の日本史の教科書に記されている内容のなかから、習ったはずなのに、その歴史的意義があまり理解されていないことや、誤解されがちなこと、そして、ぼくが皆さんに、もっと知ってほしいと思うことからテーマを選んで、全部で十二時間の授業をおこなうものです。あわせて、ぼくの「お薦め」の文化財も紹介しています。
 よかったら、今から一緒に、日本の歴史を振り返ってみませんか。もちろん、楽しい、華やかな過去ばかりではありません。反省すべきこともあります。
 それでも最後の時間が終わる頃には、きっと、日本史を好きになってもらえるのではないかと思います。そして、この本を片手に、紹介した文化財に会いに行っていただけるなら、さらにうれしいです。
 それでは、授業を始めます。
 「お願いします」