■もし男性号を作るなら?
穂村 自分自身のリズムはどうなんですか? いつもすごく独特のリズムを自信満々に押してくるという印象なんですけど(笑)。
川上 押してくるっていうのは、人間性の話ですか。
穂村 そんなわけないじゃん(笑)。書いたものの話で、小説にしても詩にしても、あそこまで個性的なリズムで自信満々に押すってことは確信があってやっているのかなと。
川上 わたしのリズムはそんなに個性的じゃない、というか、特に初期の散文詩なんかは日本語のベーシックなリズムであるところの七五調ですよ。
穂村 そうなんだ。
川上 はい。七五調に加えて、単語の持ってる意味がぶつかったときに生まれるナンセンスさとか、そういう塊としての何かだったような。ある意味で自信満々ではあったけど、自信満々に見えるというのはまたべつの話……自信満々に見えましたか。
穂村 ……うん(笑)。関西弁とリズムが相乗的になっていて強い表現だったと思います。
話は変わるんですけど、もし川上さんが男性号を作れと言われたら、どんなひとに何を頼みますか?
川上 男性号は……あまり思いつかないなあ。でも女性号で、誰々が入ってない、どうしてこの人が入っていてこの人は入らないんだという話はさんざん耳にしまして、やっぱりそれぞれ心の神棚に祀っているひとがいるんですよね。でも、これが日本でただ一冊だけ「女性号」なるものを作るという話だったら、わたしもこの人は外せないとかもっといろいろ考えたと思いますけど、別にそういうわけでもなく、あくまでわたしの責任編集号ということで好きにやったものなので、物足りなさを覚えたのなら、自分なりの女性号を考えてみるといいと思うんです。わたしも読みたい。穂村さん、男性号をやって下さいよ。
穂村 ムチャ振りじゃない?(笑)
川上 論壇誌とか男性しか書いてないんだから、どこでもいつでも男性号があふれてるとも言えるんですけど、でも男性の書き手が、哲学や政治や社会についてでなく「男性」をテーマにして書いたとしたら、どういうことになるのか読んでみたい気もするよね。でも、いろんな否認が行き届いてるから、今読めるものとあまり変わらないかもしれないですね。
それはさておき、振り返ってみて、『女性号』は自分にとっても大きな仕事になりました。ただ、先日『銃後史ノート』という戦後と女性がどのように関わっていったかを何十年にも亘って記録したミニコミを読んで、あまりにも素晴らしくてその存在も知らずに女性号を作っていたことに愕然として、思わず、もう一回作らせて下さいと言いかけました。やりませんけど(笑)。だからもちろんわたしもまだまだ知らないことだらけで、みんなが知っていること知らないことをそれぞれシェアしながら、いろんな特集をどんどん作っていけばいいと思うんです。気づいたらそのときに、何度でも、やればいいんですよ。
昨年9月に刊行されるやいなや大反響を呼び起こした『早稲田文学増刊女性号』。それを承けて、11月26日に早稲田大学戸山キャンパスにて、4つのパネル、計8時間近い長丁場で開催された早稲田文学増刊女性号刊行記念シンポジウムより、川上未映子×穂村弘によるパネル1「詩と幻視――ワンダーは捏造可能か」の後編をお送りします。詩にとって重要なリズム、不可逆性の話から男性号の可能性まで、ワンダー溢れるトークの応酬!