■承認を自分自身ではなく、自分の作品から調達する
斎藤 SNSは要するに承認の量を量れるシステムで、アイドルはまさに承認ゲームのまっただなかで頑張ってるひとたちだから、よくこんなことに耐えられるなと思います。自分がどんなに頑張ろうと、Aさんよりフォロワー数が少ないというのが歴然とわかっちゃうわけだから。反面、何をしても承認してくれる仲間だけを見ているぶんにはすごく居心地のいい空間で、一種ぬるま湯的な抜けにくさがありますね。
福嶋 やっぱり、目の前のひとに「かわいい」と言われることでインスタントに承認欲求を満たすことができるので、延々と頑張ってしまうんですよね。自信を持たせるために、本当に小さな土台――毎日こういうツイートを五回してみようとか――を用意してあげて、それでフォロワーが二〇人増えたら「よく頑張ったね」って、ほとんど赤ちゃんを育てるくらいデリケートですよ。
斎藤 ものすごくケアをしてるんですね。
福嶋 大事なのは、フォロワーが増えたのはあなたが毎日これだけツイートしてたからだよ、と具体的な努力と結果を結びつけてあげることなんです。そういうのをちょっとずつ積み重ねていって、しっかりした自信につなげていく。
斎藤 プロデューサーの頑張りがすごい(笑)。
福嶋 素直に伸びていってくれればいいけど、突然調子に乗ったりするから、そのときはバシッと叩いてあげなきゃいけなくて、ほんとめんどくさいですよ(笑)。
斎藤 承認ゲームは非常に流動性が高いので、今日トップでも明日落ちてるかもしれないわけで、躁鬱っぽくはなりますよね。
福嶋 しかもアイドルの場合、まだ若いのに自分はアイドルとして生きてくしかないって思い込んでるから、承認ゲームに全力でインしちゃってるんですよ。だから保険がなくて、不安定になる子も多いんです。だからわたしは、あなた、こういうこともできるんじゃない? こういう仕事も向いてるんじゃない?という提案をちょっとずつ出すんです。アイドルだけが人生のすべてじゃないですから。
斎藤 むしろ傷ついてしまうのでは?
福嶋 アイドル活動においても、ほかの職業に目を向けるということは必ず役立ちますから。「本が好き」って言ったら、「じゃあ書評の連載とかしようか」とか。そうやってあわよくば書評アイドルとか作家にならないかなと。
斎藤 なるほど。
福嶋 「パンが好き」だったら「パン屋さんも輝いてるよね」とか(笑)。
斎藤 ハロワみたいですね(笑)。いや、むしろサポステのカウンセリングか。
福嶋 アイドルじゃなくても承認は得られる、ということを徐々に教えていかないといけないと思うんです。パンを作って、それがおいしいって言われるだけで承認された気持ちになりますよね。承認を顔とか自分のキャラじゃなくて、自分の作品とかに持っていったほうが楽だし安定するよと。
たとえば、ダンスが好きでアイドルをやっているという子に、「振付やってみたくない?」と言うんです。それが評価されると、アイドルとしての自分と少し違う、自分の作品が評価されたというのは確固とした自信になるんです。
斎藤 いまの承認欲求の難しさは数ではかれるのに、そこに自分の能力とか質が反映されないというところなので、そのひとの能力が承認される方向に持っていくのは難しいけどいいやり方だと思います。
福嶋 わたしが強く勧めるのは、芸名を自分の本名とまったく別に持つことですね。そうすると、叩かれても自分じゃなくて自分の作品が叩かれていると思えるので。
斎藤 ある意味キャラの戦略と似ていますね。
福嶋 アバターですね。もちろんアバターも傷つくんですけど、自分自身が傷つけられるよりはマシっていう。だから、学校の場合でもクラスネームとか付けて、本当の自分ではないクラスのキャラを生きられたらいいんですけどね。
斎藤 それはその通りですけど、問題はやっぱりキャラが自分だけで決められないことですね。
福嶋 「キャラ作りお手伝いします」って商売始めようかな(笑)。
斎藤 もふくちゃんがプロデュースしてくれるんだったら勝てると思いますけどね(笑)。
2008年の刊行から10年経ってなお注目を集める『友だち幻想』(菅野仁、ちくまプリマー新書)。ひきこもりのエキスパートにしてポップカルチャーにも造詣の深い精神科医・斎藤環さんと、でんぱ組.incやわーすた、虹のコンキスタドールなどの辣腕プロデューサーである福嶋麻衣子さんに、現代の若者や子どもたちの最重要課題と言っていい〈友だち〉〈つながり〉をキーワードに、いまなぜ『友だち幻想』か?をお話しいただきました。