■友だちを無理に作る必要はない
福嶋 つながりは欲しいけど、傷つきたくないというひとが増えているなかで、われわれは何をしたらいいんでしょうね。
そもそも、「友だち幻想」といったときに、わたしはぜんぜんそれがないんです。友だちとか別にいらないので、幻想の生じようがない(笑)。結論としては『友だち幻想』も、友だちが必要だと思ってしまっているひとに対して、実はそうでもないんじゃない?と言っているわけだから、主張は同じなんですけど。
斎藤 友だちに過剰に期待しないということですよね。福嶋さんが友だちは必要ないというのはもともとの性格もあると思うんですけど、友だちに頼ったりしないメンタルの強さもありますよね。
福嶋 メンタル強いですよー、わたし(笑)。
斎藤 その強靱さはどのようにすれば得られるんでしょうか。
福嶋 自分ではわからないですけど、たとえばあまり結果にこだわらないことでしょうか。なにかやるときにうまく行けばそれでいいし、うまく行かなかったらさっさとやめて田舎で暮らそうくらいの気持ちでいるとか。
斎藤 そういう腹のくくり方はどうしたらできるんでしょう。
福嶋 逆にみんな、なんでそんなに「仕事がなくなったら死ぬ」とか「アイドルじゃなくなったら死ぬ」って追いつまっちゃうのかがわからない(笑)。もっといろんなことに興味を持って、あれがダメならこれくらいの気持ちで生きればいいと思うんです。昔はアイドルになりたい子って、こういうことがしたいとかこういう風になりたいという夢があったと思うんですけど、いまはアイドルになりたいだけがあって、具体的な夢がない子が多いんです。
斎藤 その感じ、よくわかります。
福嶋 「なんでもいいから好きなことを言って」って言うんですけど、「えー、特にないです」とか。そんな人生、ちょーつまんなくないですか。
斎藤 ちなみに恋愛には関心はないんですか?
福嶋 ないですね。
斎藤 やっぱり。欲望の水位低下ということが一〇年前くらいから言われてますけど、ここまで来てるんですね。
福嶋 でもガチャはやるんですよ。
斎藤 そういう欲望はあるんだ(笑)。
福嶋 じゃあそのゲームが好きかというとそうでもない。やっぱり好きなものがないと強くなれないし、ダメだと思います。
斎藤 愛されたかったら愛しましょうというさっきの話と同じで、好きなものが多いひとは強くなれますよね。ただ、欲望を持て、というオーダーは一番難しいんです。うまく感染してくれるといいんですけど。ふつうに福嶋さんの生き方を見て、わたしも、とか思わないんですか。
福嶋 ぜんっぜん(笑)。「もふくさんはいつも幸せそうでいいですね」って生温く見られてる。たまに、わたしみたいになりたいです!ってガッツのある子もいるけど、一〇年やってて一人か二人くらい(笑)。上下よりはやっぱり横なのかな。つながりを持ちたいって子は多いです。
斎藤 アイドル同士はわりと仲良くなるんですか?
福嶋 わたしは必要以上に仲良くするなと言ってますね。別に仲が悪いわけじゃないし、仲いいですよ。ただみんなに一個だけ守ってほしいこととして、「ここにいる子たちは友だち同士ではなくて、仕事仲間なので、友だちにはならないでください」と言いますね。
斎藤 恋人禁止以前に友だち禁止なんだ。
福嶋 友だちになるとめんどくさいので、友だちにならないでください、ここにいるみんなは同じ目標を持った仕事仲間です、以上って。これだけは守ってもらいますね。そうしないと、すぐ関係がグズグズになるんです。
斎藤 優れたマネジメントだと思います。友だちを禁止したら、親しくならないエクスキューズもできますしね。親密さを偽装する「いじり」という名の「いじめ」も根絶できそう。
福嶋 そうそう、友だちじゃなければご飯とか誘われても断りやすくなるじゃないですか。やっぱり「友だち100人幻想」みたいな友だち至上主義は良くないですよ。
斎藤 むしろ学校では「友だち作らないほうがいい」と言ってもいいくらい(笑)。そのほうが反発して友だちが自然とできるだろうし。
福嶋 中一の最初に『友だち幻想』を読ませて、「友だちって幻想だから、作らないでください」と言う(笑)。無理して仲良くなるのをやめるだけで、生きやすくなると思いますね。
斎藤 さっきも言ったけど、全員が同時に読む必要があるので、一部を教科書に載せたりするといいんじゃないでしょうか。
福嶋 ほんと、授業でちゃんと「友だちは幻想です」と言ってくれたほうが、わたしの手間が減って助かるので、よろしくお願いします(笑)。
(五月十四日、筑摩書房にて収録。)