金田淳子

round.1 『Prince of Legend』

漫画・アニメ・小説・ゲーム……さまざまな文化表象に、萌えジャージにBLTシャツの粋なフェミニストが両手ぶらりで挑みます。うなれ、必殺クロスカウンター!! (バナーイラスト・題字:竹内佐千子)

 この連載は、フェミニストで、おたくで、やおい好きである私が、「おっ、なんか面白そうだな」という作品に対して、前情報ほぼ無しという両手ぶらり戦法で近づいていき、いきなりいい一発をもらってKOされたり、あわよくばカウンターを出して、鋭い感じの感想をお見舞いしたりする批評だ。

 そういうわけで第一回は、ドラマ『Prince of Legend』。あの「HiGH & LOW」シリーズと同じく、プロデューサーHIROさん、 制作HI-AX、もちろんLDH所属のアーティストや、注目の俳優が多数登場するドラマだ。「HiGH & LOW」と同じ布陣というだけで、視聴することは決めていたのだが、いろいろ所用が重なってリアルタイムで見ることができず、最近になってやっとHuluで9話までを視聴した。(追記:全10話を視聴しました)

 このドラマのキャッチコピーは「王子が大渋滞」。14人のイケメンがテンポよく次々に壁ドンするアイキャッチ映像と相まって、あまりにも雄弁に、「バカっぽい設定と極上のイケメンを用意したので、自由にツッコミつつ、イケメンを楽しんでくださいね」という制作側の気持ちが伝わってくる。このキャッチや映像、設定の「バカっぽさ」のせいか、リアルタイムで視聴した私の知人友人は、ツイッターで「意味が分からない」「感想が浮かんでこない」「でも見てしまう」「(出てくる俳優の)顔がいい」など虚脱ぎみに呟くという、「HiGH & LOW」のときと同じような魔法にかかっていた。

 そういうわけで、私も両手ぶらり戦法で挑んだが、意外や、むしろ第一話から「意味がよくわかった」。「HiGH & LOW」で脳が焼かれすぎて、私がおかしくなっているだけかもしれないが、普通に「あっ、白泉社系の少女マンガで、よくあるやつだな」とすんなり把握できたのだ。
 白泉社系のマンガ。それは普通の学園ものに見せかけて、まあ本当に学園ものである場合もあるが、ちょっと油断すると、それこそ本物の「王子」が登校している、異性にハグされると十二支の動物になる、ヴァンパイアが登校している、学園内にホストクラブがある、などのファンタジックな設定が盛り込まれている。女性キャラよりも男性キャラの比率が多めで各種イケメンが取りそろえられ、素朴でピュアなヒロイン、または男勝りなヒロインが王子に愛されドキドキ……という展開が多い。90年代半ばに『アンジェリーク』(光栄制作)というタイトルから始まった「乙女ゲーム」(女性向けの恋愛ゲーム)と相通じる作風だ。

 この手のマンガに慣れていると、「王子」レベルの高い男が14人居て、彼らが理由(わけ)あってヒロインの通う学園に集まってくる、という「Prince of Legend」のストーリーは、現代の民話として理解ができる。特に、第一話から「セレブ王子」として登場する「朱雀奏(すざく・かなで)」は、総資産数兆円の朱雀グループの御曹司という、傍目にも異常にわかりやすい王子ぶりなので、歌舞伎で言えば「よっ、朱雀屋!」などと声をかけないといけない。

 この「セレブ王子」の側近二人もまた「王子」であり、それぞれ「メガネ王子」「下剋上王子」という二つ名を冠される。この時点で、「『メガネ王子』はさすがに雑ではないか」「王子の基準とは」と疑問が生まれるが、他にも次々と「ヤンキー王子」「ダンス王子」「美容師王子」「先生王子」などが出てくるので、「小さいことにこだわってすみませんでした」という気持ちになる。このあたりは「HiGH & LOW」で皆が「データ」ではなく「SDカード」だとか「USB」だとか連呼する状況、琥珀さんがUSBを持ったまま外国に行って何もせず帰ってくる状況に、さすがに疑問を感じるも、ノートPCにUSBを接続するとき、なぜかカセットテープみたいにガシャッと上から入れる仕様だった時点で、何もかもがどうでもよくなるのと同じだ。要は、「面白いから許す」ということだ。

 それで、俺たちの「HiGH & LOW」との違いは?ということだが、まずケンカやアウトロー要素がなく、代わりにセレブ要素が入っている。「HiGH & LOW」におけるケンカは、北野映画のような陰惨なものではなく、祭りでありダンスなので、私は『Prince of Legend』でもなんらかのダンス要素を(ダンス王子以外にも)毎回入れてほしかったが、尺の都合もあり、突然、セレブ王子たちが踊りだすと、おかしなことになってしまうのはわかる。あの『KING OF PRISM by PrettyRhythm』ですら、理由がなければ踊らないのだ。

 それともう一つ、「HIROさんは学習している」と私が(なぜか上から目線で)感心したのは、ヒロインの描写だ。「HiGH & LOW」では、世界観が世紀末なこともあり、女性が男に守られる存在、男に憧れる存在、おにぎりを作って男を待つ存在として描かれていた。女たちが、男性とは違った意見や関係性を持つ、個としてではなく、男たちのロマンを支えるための単なるコマになっているという部分は否めなかったと思う。
 さて『Prince of Legend』。予告の時点で私は「アニメ史でも、すでに『少女革命ウテナ』が90年代半ばに、『王子と姫』幻想をあれほど克明に問題化して、斬って捨てたのに、また『王子』か……」と、怖々、見ているところがあった。しかし第1話の最終フェイズで、ヒロイン成瀬果音(なるせ・かのん)は、自分のことをよく知りもせずに告白してきたセレブ王子に対して、「男の妄想、押しつけないでください」とバッサリ斬り捨てる。その後も、どの王子に告白されても、「男の妄想だ」「他の男と張り合いたいだけだ」と的確な批判をし、「私はこれでもけっこう幸せなので、勝手に可哀相がらないでほしい」とも伝える。

 『Prince of Legend』の王子たちの多くはいまだに、男が女を守る「王子と姫」という対幻想や、ホモソーシャル社会の序列である「伝説の王子」という妄想に囚われ、唯一の王子に選ばれたくて右往左往している。「王子」と呼ばれているが、人間的なおかしみに溢れており、そこがこのドラマの面白さでもある。一方でヒロインのほうは、貧しい庶民でありながら、それらの妄想から「一抜け」している。それが他にない果音の魅力であり、私から見てとても好感が持てる女性キャラクターだ。まさに、白泉社系ヒロインの王道(女王道?)ともいえる。王子を何とも思っていない彼女の周りに、逆に、王子たちが集まって大渋滞になるのも、ある程度の説得力がある。
 今後の展開(劇場版)で、果音が、王子の誰かを好きになるのかどうかはまだわからないが、私的には、その部分はオープンエンドであってほしいという希望がある。誰かに恋愛をしてもいいが、そのことで、このかっこいい果音が変わってほしくない。変わるのは「王子」たちのほうだ。それとは別に、私は下剋上×メガネ、ヤンキー弟×兄を応援したいと思う。

 ちなみに、これをドラマやマンガに関して言うのは野暮かもしれないが、果音は、お父さんの借金について相続放棄をしたほうがいい。また、朱雀奏と京極尊人に対して、父親が出した「果音と結婚したほうに全財産を相続させる」という条件は、法的に無効なので(法定相続分が民法で定められているから)、誰か教えてあげてくれ。このようにドラマの根幹の部分で「日本ではないのでは」「治外法権では」という展開がちょいちょい起こるため、私はこの一帯について、SWORD地区なのではないかという疑惑を持っている。果音さんによる「伝説の王子」爆破セレモニーが楽しみだ。