地方メディアの逆襲

秋田魁新報「イージス・アショア」報道編① 取材方針「やれることは何でもやる」

地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 報道の現場と人を各地に訪ね歩く「地方メディアの逆襲」。12月9日にちくま新書の1冊として刊行予定です。こちらでは、政府が断念したイージス・アショア配備計画を追い続けた秋田魁(さきがけ)新報を取り上げた回の一部がご覧になれます。


「秋田が軽んじられている」
 計画が浮上した日、防衛省や佐竹敬久・秋田県知事へ確認取材に当たったのは、政治経済部で県政担当だった石塚健悟(38、現・社会地域報道部)だ。しかし、防衛省の報道室は「何も決まっていない」とにべもなく、海外出張中だった佐竹知事は「本県へ配備するとなれば事前に政府から話があると思われる。正式な話を受けたうえで対応する」と文書でコメントを出すのみだった。
 佐竹知事は「候補地は新屋」と報じられて以降も、国から連絡は一切ないと言い続けた。「国有地であり、県としてどうこう言えない」と、まるで受け入れやむなしとも取れるコメントを当初はしている。県庁生え抜きで、秋田市長を経て知事となった佐竹は、自民党の支持を受け、盤石の体制で三期目に入っていた。秋田出身の菅義偉官房長官と携帯電話でやり取りする仲であり、おまけに軍備や防衛問題に精通していると自負する。常識的に考えて、何も連絡がないことはあり得ない。
 だが、知事が明言しない以上、周辺から掘り下げるしかない。17年秋から18年前半にかけて、石塚はさまざまな角度からイージス・アショアに迫ろうと試みた。
 たとえば、元自衛隊幹部や研究者へのインタビュー。「秋田配備に合理性はない」という見解を引き出した。政府が候補地を明らかにしないまま、イージス・アショア導入と7億円以上の予算案を閣議決定した際には、不透明で地元置き去りの政治を批判する解説記事を書いた。もう一つの候補地とされた山口県萩市を訪ねたルポでは、演習場が市中心部から車で40分も離れた山林にあることを報告し、秋田の新屋がいかに生活圏に近いかを指摘した。
 石塚だけではない。東京支社では記者が国会の代表質問から各委員会まですべてチェックし、「イージス・アショア」の文言が出れば、やり取りを一字一句書き起こした。防衛省記者会には加盟していないため、会見予定を逐一問い合わせ、幹事社の了解を得て参加した。秋田市政担当記者たちは、地域住民をフォローしつつ、市議会・県議会の議員に賛否を聞いて回った。
 報道を途切れさせてはならない。その思いが記者たちを動かしていた。やれることはすべてやる、と。
 私が取材で向き合った石塚は、物静かで謙虚な語り口だった。記者になって13年目。入社動機を聞けば、「実は、『でもしか記者』なんです。高校の国語教員志望だったんですが、採用試験がうまくいかず、たまたま秋田魁の募集を見まして……」と苦笑する。だが、一連の取材の中で自身の転機はいつだったかと問うと、一瞬、言葉に感情をにじませた。
 18年6月1日、防衛省の福田達夫政務官が初めて秋田県庁を訪れた日のことだ。福田は佐竹知事と面会し、新屋演習場を最適候補地として調査に入ると告げることになっていた。第一報から半年以上経ってようやく訪れた重大局面。石塚たちは固唾を呑んで見守った。
 ところが、意に反して福田の口調はきわめて軽かった。資料を見ながらの説明は、「なぜ秋田と山口か」という疑問にまったく答えていないばかりか、新屋「演習場」を新屋「駐屯地」と何度も言い間違えた。事前の取材で、知事は「なれ合いは嫌だ」と厳しく臨む姿勢を見せ、県や防衛省も「終了時間は決めていない」としていたが、ふたを開けてみれば友好ムードすら漂い、福田はたった40分で帰って行った。別れ際には、関係のない話題で笑顔を見せて。
 石塚は失望した。県民の不安に答える、予定調和なしの議論を期待したのに。
 「福田政務官のなんとも軽い態度は、住宅地の近くに配備する重大性の認識が欠けているからだと思いました。それまでも薄々感じていましたが、ああやっぱりと確信に変わった場面です」
 静かな語りに感情がにじみ出るのを見て取り、私は問いを重ねた。その時の気持ちを、あえて言葉にすればどうなるか──。
 「怒り、ですね。軽んじられている、という。彼らは秋田を、われわれ秋田の人間を軽んじていた」

石塚記者(手前)と泉統合編集本部長

 

2020年7月24日更新

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松本 創(まつもと はじむ)

松本 創

1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に「第41回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞した『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社)をはじめ、『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のひたむきな生き方』(講談社)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(西岡研介との共著、講談社)などがある。

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