第五千年紀後半の世界の劈頭を飾る一六世紀。現代の歴史学に大きな変革を巻き起こしたフェルナン・ブローデル(一九〇二〜八五)の大著、「地中海」も、イマニュエル・ウォーラーステイン(一九三〇〜二〇一九)の名著、「近代世界システム」も、同じく一六世紀から筆を起こしています。印刷・出版技術がヨーロッパでも広く普及して、史料や文献の量はそれまでの時代とは比較にならないほど増大しました。歴史学が学問足りうる素地が十分に整ったのです。しかし、そのことは同時に歴史学が専門化に向かう端緒ともなりました。
この一六世紀を象徴する言葉を挙げてみると、盛期ルネサンス、宗教改革、イエズス会、コロン(コロンブス)交換、コンキスタドール(新大陸の征服者)、ユグノー戦争、アルマダ海戦、鉄砲、後期倭寇、石見銀山などがあげられます。ヨーロッパでは、フランスとハプスブルク家が争い、宗教改革の大きなうねりが生じました。アジアでは、サファヴィー朝やムガール朝などの大帝国が誕生し、アジアとヨーロッパに跨るオスマン朝は極盛期を迎えます。また、一六世紀の世界は、銀を交換手段とする交易が全盛を極めた時代でもありました。新大陸と日本から銀が豊富に供給され、世界の流動性が潤沢に確保されたのです。絹やお茶などの豊富な世界商品と引換えに銀を大量に飲み込んだ明(中国)では、税金の銀納(一条鞭法)が始まりました。
交易の舞台は地中海から大西洋やインド洋に移りました。この結果、イタリアの世紀が終わってヴェネツィアやジェーノヴァが衰退し、リスボンの短い春を経て、早くも一六世紀前半には、スペイン帝国の港湾都市アントウェルペン(アントワープ)、次いでアムステルダムが世界交易の中心都市として浮上してきます。
シュペーラー極小期(一四五〇〜一五五〇の太陽活動の低下による寒冷期)以降、気候が温暖化して、ユーラシア全域にわたって、生産活動が活発化しました。
ヨーロッパでは、銀の大量供給などによりインフレーションが起こって価格革命(物価はこの一世紀間に三倍)が生じました。その結果、地主階級が没落して、商人階級がそれに取って代わりましたが、生産拠点は、ギルドによって厳しく規制された都市から、徐々に規制のない農村部へと拡がっていきました。これによって、生産力の増大を果した商人は、これまでのような国際交易に留まらず、国内市場の育成・開放にも目を向けるようになりました。ここに至って、国家と商人は利害を共にすることに気づいたのです。
(続きは本書にて)
人類史を一望する大人気シリーズ、待望の第四巻! 本書が取り扱う1501年~1700年は、まさにビジネスの世界化が始まった時代。征服者が海を越え、銀による交易制度が確立、大洋を舞台とするグローバル経済が芽吹く。互市システムが始動したアジア四大帝国繁栄の傍ら、ヨーロッパは宗教改革と血脈の王政が荒れ狂う危機の局面へ。本書冒頭、16世紀を扱う第九章からリード文をためし読みとして掲載します。