読者の皆さん、こんにちは。著者の田中靖浩です。
私は公認会計士としてコンサルティングや企業研修・ビジネススクールの講師をしながら、作家として会計・経営・歴史関係の書籍執筆をしています。このたびは皆さんへ「会計と経営の成り立ちを楽しくお伝えする」機会をいただきました。読者の皆さん、どうぞよろしくお願いします。
本書の「会計と経営の世界史ツアー」は700年前のイタリアからはじまり、スペイン、オランダ、フランス、イギリス、アメリカと、その時々の〝経済大国〞をめぐりながら、話が進みます。
会計書といえばふつう、「簿記や決算書の基礎」から話をはじめますが、それをやってしまうと「いきなり挫折する初心者」が多いのです。そこで本書は簿記や決算書、ディスクロージャー制度がいつ、どこで、どんな理由で誕生したのかを物語ふうに説明しました。
本書を読んでいただければ、会計と経営の基本やつながりを大づかみに理解してもらえると思います。本書では読者が楽しく学べるよう、3つの工夫をしました
① 冗談交じりの語り口調で柔らかくお伝えしたこと
本書は、2020年12月に私が「NHK文化センター青山教室」で行った講義をもとに、大幅な加筆修正とアップデートを施して作成しました。ふだんから落語家・講談師さんと共演している私の講義は、雑談どころか脱線・冗談などオンパレードですが、今回はあえてその雰囲気を残しました。講談を楽しむつもりでリラックスしてお読みいただければと思います。
② 会計の発展を「5つの発明」に整理したこと
本書では、会計の発展を「簿記・株式会社・証券取引所・利益計算・情報公開」の5つに整理して解説しました。この5つの発明を順番に理解すれば、金融市場の全体像が見えてくるはずです。最近、小学校・中学校・高等学校の学習指導要領が改訂され、授業に金融市場や株式投資の説明が導入されました。その新カリキュラムの内容も、本書の「5つの発明」に深く関係しています。学校の先生そして生徒の皆さんは、ぜひ本書を「新カリキュラムを学ぶお供」にしていただければ幸いです。
③ 会計の発展を人物伝中心に表現したこと
本書は会計や経営の発展史を制度の変遷に沿って並べるのではなく、できるだけ「人物」にフォーカスして表現しました。本書にはたくさんの政治家や実業家、そして画家たちが登場します。彼らはそれぞれの時代、何について悩み、どんな解決策を生み出したのか、それを少々大げさな講談調で語ってみました。彼らのしあわせな雄叫びや嘆きの声をお聞きいただき、その時代の風を感じていただければと思います。
経営とは「ヒト・モノ・カネ」のやりくりです。
個人であれ、会社であれ、国家であれ、「ヒト・モノ・カネ」をうまくやりくりすることが大切。ここで会計は「カネ」のやりくりを扱います。そこにいるヒトが一生懸命に努力してすばらしいモノをつくっても、「カネ」がうまく回らないと活動を続けられません。ところがリーダーの中には、すばらしい指導力を発揮して政治・外交をこなしながら、「カネのやりくりだけは苦手」という人物がいるんです。本書にもそんな人物がたくさん登場します。そんな彼らの苦労や失敗を経て、「お金の状況を明らかにする仕組み」や「お金をうまくまわす仕組み」ができあがってきました。
この本を読んでいただければ、会計の初心者や学生さんでも
・商人たちが帳簿を付ける理由
・株式会社と証券取引所が生まれた理由
・税金をめぐってトラブルが多い理由
といった会計の基本について「なるほど、そういうことか」と理解してもらえるはずです。また、ビジネスパーソンであれば、
・コーポレート・ガバナンスが必要になったルーツ
・働き方改革が必要なほど働きすぎる私たちのルーツ
・大規模生産と安売りのルーツ
といった「ビジネスの常識」について、その起源を知ることができると思います。
本書は初心者でも会計の歴史を理解できるよう、「わかりやすさ」に重点をおきました。それゆえ、より正確な情報を知りたい方は専門書にあたってください。また、本書の物語を読み終えて、「会計って、意外におもしろそうだな」と感じた読者は、ぜひその好奇心を次につなげてください。詳しく会計の歴史を説明した拙著『会計の世界史』(日本経済新聞出版社)、あるいは簿記の勉強や決算書の読み方を学んでみるのもいいでしょう。よかったら私の講義にも来てくださいね。
さて、前置きはこれくらいにして、そろそろ講義に入ります。
あ、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。いきなり難しい話をはじめたりしませんから。
まずは「破天荒なイタリア男」の話をお聞きください。
波瀾万丈なその人生をみると、「ほんと、会計の歴史と同じだなあ」と、つい私は思ってしまうのです。彼の人生は、まさに「興奮と狂乱」そのものでした。