筑摩選書

「巨大な不可解」ストーンヘンジ
『ストーンヘンジ』はじめに

だれが作ったのか? 何のために建てられたのか? 石はどうやって運ばれたのか? その謎ゆえに多くの人びとを惹きつけてきたストーンヘンジ。この世界で最も有名な古代遺跡について、最新研究をもとに解説したのが山田英春『ストーンヘンジ』(筑摩選書)です。その「はじめに」を、ここに公開いたします。また、カラー図版多数の本書より、数点の図版もあわせて公開いたします。ぜひお読みください!

 学術的な調査も17世紀から連綿と行われてきた。ストーンヘンジは世界で初めて、単独で一冊の書籍のテーマになった遺跡であり、現在も新しい論文、書籍が数多く発表され続けている。この遺跡はそもそも世界の始まりはいつごろなのか、人間の歴史はどれだけ深いのか、というテーマとも深くかかわってきた。キリスト教の教義と学問が不可分だった時代、旧訳聖書に記される大洪水とストーンヘンジはどういう関係があるのかは真剣な議論の対象になりえた。紀元前後にブリテン島を支配したローマ人が作ったものなのか、その前に鉄器の民ブリトン人が作ったものかという議論も長く続いた。有閑貴族や考古家たちは測量をし、土を掘り、人骨や土器や石器のかけらを記録して、何か「答え」を導く手がかりを探し求めた。
 近代考古学が誕生し、人間の歴史が従来考えられていたよりもずっと長いことがわかってくると、鉄器が誕生する前、青銅器を使っていた人たちのものだろうと考えられるようになる。放射性炭素を調べることで年代を知る方法が開発されると、巨石が置かれた年代は一気に紀元前1800年頃までさかのぼった。それが紀元前2020年頃、紀元前2300年頃とたびたび修正され、紀元前2500年頃に、石器と鹿の角と木材とロープと人力だけでつくられたものなのだとわかったのはつい最近のことだ。ストーンヘンジは手をのばすたびに歴史の深奥へと遠ざかって行ったのだ。現在も学者たちは、石にレーザー光をあて、薄片を顕微鏡でのぞき、出土した骨をCTスキャンにかけ、遺伝子情報や歯のエナメル質の同位元素を調べ、いつ、どういう人たちが、どうやってつくったのか、探りつづけている。

『ストーンヘンジ』本文より
『ストーンヘンジ』本文より
 

関連書籍