T/S連載開始記念対談

想像力の届かせ方を創造する(1)
演劇と小説のあいだで

気鋭の劇作家・藤田貴大さんの虚構的自伝小説「T/S」のPR誌『ちくま』での連載開始を記念して、お互いにリスペクトしあうお笑い芸人・作家の又吉直樹(ピース又吉)さんとお話しいただきました。初回を読んだ上で話すはずが、いきなり書きあぐねて対談までに初回が間に合わなかった(!)藤田さんに、又吉さんが『火花』執筆時の苦労を吐露します。全3回の初回をお楽しみください。

藤田 いまお話を聞いていて、又吉さんの小説を読んだときに“腑に落ちる”理由がわかった気がします。前に「ネクストブレイカー」(NHK-BSプレミアム、2017年6月14日放送)でも話しましたけど、又吉さんは完全に時間が止まっているんだなと思う瞬間が「火花」や「劇場」を読んでいてあったんです。又吉さんがかつて言われて悔しかったこととか見てて悔しかったことが身体の中に鮮やかに残りすぎていて、小説の中でそれが噴出している。ここ小説じゃなくない?(笑)というところがあるんです。
 特徴的なのが、20メートル先で男女――たとえばライバルと好きな女性とか――がなにかしているのを見ながら、あいつはどうだとかお前はなんでそうしたと思うシーンがよく出てきて、そのとき覚えた感情が完全に時が止まったまま残っているんだなと思うんです。それは僕からすると、私小説でもなくもはや小説というのも超えて、感情のかたまりを直に浴びてる気がして、こえーなと思うんです(笑)。
又吉 小説を書く前に、当たり前やけど小説が好きなんでいろいろ小説を読んできて、そうすると評論なんかも読むわけです。そのとき感じたのは、ちょっと表現の流行りがありすぎるんじゃないかと。もちろんかつてこうでそれがこう変わっていまこうなっているという流れは大事ですけど、それとは違う軸で生きている人間がその流れを見たときどう思うんやろうと。流れを追いかけているひとにとっては面白いだろうけど、みんな一緒にいまはこれ、次はこれとやってるのは、感覚の話というよりも単に情報の話なんじゃないかなと。僕は文学とかの勉強はいっさいしてなくて、個人的に読んできただけですから、近代文学と現代文学を時系列で読まずに同時に読んでたんですね。そうすると、昔の小説でも、いまむちゃくちゃ面白くて新しく感じる瞬間がある。僕からしたら、その作品の文学史的評価よりも、単純に自分でもこれは考えるなとかこれは絶対思いつかないわという距離感が面白いんです。
 それでナマの感情を抑えるというのも、わりと現代文学の基本のスタイルとしてあって、そうしなければいけない理由もわかりますけど、もう少し羽目を外したりズレたりしていいんじゃないか、話の流れを感情が追い越してしまうということがあってもいいんじゃないかというのがあって、ああいう小説を書いたんですね。「火花」のときは特にそれを意識していて、自分の中で小説として成立しているかしていないかというラインを考えた上で、編集者に、ここからはもうちょっと感情を抑えてくださいということになると思うんですけど、あえて行っちゃったほうが面白くなると思うんですと言いました。ともかくいったん読ませてくださいという話になったんですが、やっぱり小説としては前半のほうが感情を抑えて精度高く書かれていていいんだけど、それがラストでこうなるのも面白くはあるので、又吉さんがそれでいいならいいと思いますと言うので、そのまま載せることになったんです。僕は逆にそうしなかったら、純文学に合わせにいって読者をだましているようでいやだったんです。まあ案の定、前半はよかったけど後半はって言われましたけど(笑)。現代文学の読者としての僕もそう思いますけど、でもみんなでそればかりやってるのもどうなん? という。
藤田 又吉さんが小説を書いたと聞いたとき、読む前にかまえてしまって、なかなか手をつけられなかったんですね。というのは、又吉さんは僕らと同じ舞台側の人間だと思ってて、そういうひとが書く小説って読むのに覚悟がいるんです。又吉さんはお笑いのひとだから、またちょっと違うんだけど、劇作家が小説を書くことがここ十何年かよくあって、そのこと自体は唐十郎さんやつかこうへいさん、井上ひさしさんのころからあるんだけど、いっとき小劇場の若手のいきのよさそうなひとに小説を書かせるというのが一種流行になってた時期があったんです。僕はそのとき、演劇をやってたひとがいきなり小説家然とするのがすごくいやだったんですね。それまで演劇をやってた時間はなんだったわけ? と言いたくなった。彼らは小説に出稼ぎに行ってるみたいなつもりで、一段落したらまた舞台に戻るつもりなんだろうけど、もうお前らの戻る席なんて残しておかないからな! って気持ちがありました(笑)。
又吉 僕も劇作家だったらそう思ったでしょうね。
藤田 だから、いまの話で又吉さんにとっての「お笑い」「エッセイ」「俳句」「小説」というのがきちんとそれぞれのものとして捉えられているのと同時に、どれも又吉さんの身体の中から出てきているというのが伝わってきて、すごく納得できた。
又吉 やっぱりまず自分の感覚や考えていることがありき、ですよね。

((2)に続く)

《告知》
又吉直樹原作舞台『火花』
チケット発売中
出演:観月ありさ 石田明(NON STYLE) 植田圭輔 又吉直樹 他
東京公演:2018年3月30日~4月15日 紀伊國屋ホール
大阪公演:2018年5月9日~5月12日 松下IMPホール

チャレンジふくしま パフォーミングアーツプロジェクト
「タイムライン」

出演:ふくしまの中学生・高校生
作・演出:藤田貴大
音楽:大友良英
振付:酒井幸菜
写真:石川直樹
衣装:suzuki takayuki
福島公演:2018年3月24日(土)17:00開演/3月25日(日)13:00開演 会場:白河文化交流館コミネス 大ホール
東京公演:2018年3月29日(木)18:30開演/3月30日(金)14:00開演、18:30開演/3月31日(土)14:00開演 会場:東京芸術劇場 シアターイースト

『めにみえない みみにしたい』
作:藤田貴大
出演:伊野香織、川崎ゆり子、成田亜佑美、長谷川洋子
さいたま公演:2018年4月29日(日・祝)~5月6日(日) 会場:彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
吉川公演:2018年5月12日(土)・13(日) 会場:吉川市民交流センターおあしす多目的ホール

次回は3月20日更新です。

2018年3月13日更新

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藤田 貴大(ふじた たかひろ)

藤田 貴大

1985年4月生まれ。北海道伊達市出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。2007年マームとジプシーを旗揚げ。以降全作品の作・演出を担当する。作品を象徴するシーンを幾度も繰り返す“リフレイン”の手法で注目を集める。2011年6月―8月にかけて発表した三部作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を26歳で受賞。以降、様々な分野の作家との共作を積極的に行うと同時に、演劇経験を問わず様々な年代との創作にも意欲的に取り組む。2013年に太平洋戦争末期の沖縄戦に動員された少女たちに着想を得て創作された今日マチ子の漫画『cocoon』を舞台化(2015年、2022年に再演)。同作で2016年第23回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。その他の作品に『BOAT』『CITY』『Light house』『めにみえない みみにしたい』『equal』など。著作にエッセイ集『おんなのこはもりのなか』、詩集『Kと真夜中のほとりで』、小説集『季節を告げる毳毳は夜が知った毛毛毛毛』がある。
(撮影・篠山紀信)

又吉 直樹(またよし なおき)

又吉 直樹

1980年大阪府生まれ。高校卒業後、NSC東京校へ入学。綾部祐二氏とお笑いコンビ「ピース」を結成し、人気を博す。芸人活動と並行して執筆した小説『火花』で第153回芥川賞を受賞。2016年にドラマ化、17年に映画化され、いずれも好評を博した。他の作品に『劇場』など。

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