この情報はどこから?

第10回 
膨大なニュースの海から、
「公共性」と「社会性」で選ばれるヤフー・ニュース トピックス

 ネットにあふれる膨大な量のニュースを的確に届ける 

 前回、日本最大級のポータルサイト、ヤフーに、1日にあたり4000本のニュースが集まるとお話しました。しかし、ヤフーのトップページに並ぶ「ヤフー・ニュース トピックス」に掲載されるニュースは1日に80本から90本、多くても100本です。

 4000本のうち100本。これを多いと見るか、少ないと見るかはそれぞれだと思いますが、トピックスに「掲載される」と「掲載されない」とでは、そのニュースがネットでどれだけ読まれたか、影響力は確実に違ってきます。
 

 それだけに、トピックスにどのようなニュースを載せるかという判断は、とても大切になってきます。現場では、誰がどのように選んでいるのでしょうか。ヤフー・ニュース トピックス編集部に伺いました。

  
 まず、ヤフー・ニュースは(ネットなので当たり前ですが)24時間、稼働しています。たとえば新聞だったら、朝刊と夕刊の締め切りがありますので、1日2回ほど記事が集まるピークがありました(現在では新聞もネットに記事を配信していますので、締め切り時間は以前ほど意識されていないかもしれません)。テレビも同じです。ニュース番組のある時間帯に記事が集中していたはずです。

 ところが、ネットの登場で、ニュースはいつでも流れるようになりました。この変化はとても大きく、多くの人にとってニュースは新聞やテレビといった限られた入手手段だけでなく、ネットにアクセスすれば常に大量に得られるものへと変わったのです。

 

 ネットにあふれる膨大なニュースから必要な情報を的確にユーザーへ届けるため、ヤフー・ニュース トピックス編集部では、約25人の編集者がシフト制で24時間365日、働いています。1日を4つの時間帯に分けているそうで、7時から15時45分までが「朝番」、10時から18時45分までが「通常勤務」、14時15分から23時までが「昼勤務」で、ここまでが電車が動いている時間帯です。いわゆる「夜勤」は22時30分から翌朝7時15分までになっています。

 編集者はこれら4つの時間帯を交代で勤務しているわけで、編集部は常に誰かがパソコンの前でニュースとにらめっこしている「不夜城」です。では、編集者はどのようなキャリアを持った人たちなのでしょうか。

 基本的には新聞社やテレビ局、出版社、ネットメディアの記者および編集者の経験がある人が多いそうです。ここ5、6年は大学を出たばかりの取材経験や編集経験のない社員を編集者として育成していて、地方紙との人事交流を行って現場経験をしてもらい、編集者としてニュースの肌感覚を知ってもらうこともあるとのことでした。

 

 たとえば、取材が難しい中、手に入れた事実をベースに書かれた記事は、文字数にすれば少なかったとしても、ニュースとして価値が高いと考えられます。

 

 さらにいえば、ニュースには「行間」があります。同じことを報じる場合でも、ちょっと書き方を変えれば、その記事は全く違う印象を与えます。最近、ネットで騒ぎになったニュースを比べてみましょう。

 

 京都府舞鶴市で4月4日、大相撲の春巡業が行われました。ところが挨拶に立った市長が突然、体調を崩して倒れたのです。当初、Twitterではまさに現場にいた観客の人が、その様子をツイートし事件が伝わりました。

「観客として来てた女医さんが心臓マッサージ行ってたら『女性は土俵から降りてください』のアナウンス。人の命を助けるため一分一秒争うこの時に信じられない発言」(一部引用)

https://twitter.com/QtdeOERCYvPpwrl/status/981404446738599937

 

 すぐには信じがたい内容のアナウンスだったため、「デマ」ではないかという説が流れました。その後、京都新聞の記事がネットで流れ、「事実」であることがわかりました。さらに、他の観客が撮影していた動画もYouTubeで拡散されて、あっという間に本当に起きたことだと、伝わっていきました。

 

 このニュースを考える時、問題となるのは、なぜそのようなことが起きたのか、なぜそのような「デマ」と思いたくなるようなアナウンスが流れてしまったのか、です。新聞社の記者も同じ視点から、巡業の実行委員会や相撲協会を取材しています。

 京都新聞では、「主催した実行委員会の説明では、会場に待機していた消防署員が自動体外式除細動器(AED)を持って処置を交代したため、日本相撲協会の関係者が『下りてください』とアナウンスしたとしている」と書いています。

 

 動画を見ると、AEDを持って交代する前にアナウンスしているように見えますが、そのあたりの「疑わしさ」も合わせて読むと、記事が違ったものに見えてきます。また、日刊スポーツはこんなふうに報じました。

 「日本相撲協会関係者によると、一部観客の中から『女性が土俵に上がっていいのか?』との声が挙がり、指摘を受けた若手行司が慌てて場内にアナウンスしてしまったという」

 

 こちらは、相撲協会関係者のコメントですが、「一部観客」や「若手行司」に責任転嫁をしているようで、読者にとっては言い訳がましく読めてしまいます。これを書いた記者は、むしろそれを狙ったのではないかと思えるほどです。

 

 同じ舞鶴市の土俵上で起きた事件でも、ちょっとずつニュアンスが違ってきます。長くなってしまいましたが、編集者としてニュースを選択する時、その記事がどのような取材をしているのか、どのような意図を持って書かれているのか、読者に与える印象を決める「行間」まで読める「肌感覚」がとても大切になります。ヤフー・ニュース トピックス編集部でも、あれだけの量のニュースから一握りの「これぞ」というトピックスやその関連記事を選ぶ際には、そうした「肌感覚」が必要なのだろうなと思います。
 

 ヤフー・ニュース トピックス編集部で、ニュースをピックアップする時に重視しているのは、「公共性」と「社会的関心」という2つの柱だそうです。「公共性」のあるニュースとは、たとえば災害が起こった、政治で大きな動きがあった、など、人々の興味関心は薄い場合もあるけれども、より多くの人たちに関わる重要度の高いものです。

 

 「社会的関心」は、スポーツやエンターテインメントなど、人々の興味関心が強いニュースです。どこそこのチームが優勝した、国民的人気のあった芸能人が引退するといったものがあてはまるでしょう。

 

 ヤフー・ニュースでは、この2つの柱から、硬すぎず、柔らかすぎず、バランスを取りながら、トピックスの編成をしているとのことでした。さらに、その記事の正確性や面白さなど、大体7つぐらいの判断ポイントがあり、日々、編集者の人たちは試行錯誤しながら、ニュースと向き合っているそうです。

 

 次回ももう少し、ヤフー・ニュースの舞台裏をご紹介します。

 

この連載をまとめた『その情報はどこから?――ネット時代の情報選別力』 (ちくまプリマー新書)が2019年2月7日に刊行されます。
 

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