ちくま大学

ジェイコブズ以後、世界はどう変わったか
ジェイン・ジェイコブズなら何と言ったか 3

ちくま大学では、20世紀の都市計画のあり方を根本から変え、経済学の世界にも大きな影響を与えた思想家ジェイン・ジェイコブズの生誕百年を記念した講座を開催中です。今回は第4回「ジェイコブズ以降の都市計画」と第5回「ジェイコブズ以後の経済学」の内容をダイジェストでお届けします。

第4回「ジェイコブズ以降の都市計画」(4月28日)
                      講師 宮﨑洋司さん

ジェイコブズの都市計画の第一の特徴は、アドボカシィプランニングです。住民団体が都市計画の専門家に代替案の作製を依頼し、それをもって行政と対抗するというもの。もちろん専門家任せにするのではなく、ひろく住民の要望を聴き、守るべきもの、尊重すべきものを洗い出してゆきます。また、ジェイコブズは、急激な環境変化によるコミュニティの崩壊を防ぐため、空いている土地を順次埋めていくインフィル型開発、古い建物を改修する修復型開発を大事にしました。

しかし、「アーキテクチュアル・フォーラム」誌で記者をしていた時代のジェイコブズは、大都市再開発の支持者でした。その後、イースト・ハーレムの再開発をめぐり、関係者との話し合いなどを経験してはじめて再開発反対派に転向します。この経験で学んだことをフォーチュン誌に「ダウンタウンは人々のものである」として発表しますが、これを発展させたのが大ベストセラー『アメリカ大都市の死と生』です。

大規模再開発賛成の側にもいたジェイコブズの都市計画は、ひじょうに懐が深い。関係者を利害関係でみるのではなく、協働者として位置付け、全員を巻き込んで街を作ってゆきます。たとえばウエスト・ヴィレッジ・ハウスの計画は、当初700人以上の家族を全面立ち退きさせ、大規模高層住宅を建てようとしていました。ジェイコブズは代案を作製し、建物の取り壊しと住民の移住を基本的になくして、開発者と居住者にウィン・ウィンの状態を作り上げました。

こうしたジェイコブズのスタンスは、第1回にお話ししたように、住民主体の、住民参加型の街づくりの論理として受け継がれてゆきますが、しばしば恣意的な利用や誤用もされます。たとえば自動車中心の郊外住宅開発を批判し、公共交通を基本とした都市を目指すニューアーバニズムの人々は、ジェイコブズの言う「古い建物の必要性」は除外します。またジェイコブズが地域の声を聴き、戦略を立てていったのに対し、彼らの中では建築家やディベロッパーに重きが置かれます。またインフィル型の開発ではなく、新規開発も推進されています。

そうすると、ジェイコブズが言う活気のある町の4条件──①一つの地区には住宅、商業、工業などのうち主だった用途が二つ以上なければならない、②街路や角を曲がる機会が頻繁になければならない、③一つの地区には、新旧、また役割のさまざまな建物を混在させなければならない、④一つの地区には、実際住むなどして、人が密集していなければならない──が満しにくくなってしまいます。

もちろんジェイコブズ型の都市計画がすべて善ではなく、ジェイコブズが批判した、たとえばハワードのやり方などにも学ぶべきところはあると私は思います。ただ、実際の都市計画において、ジェイコブズの方法論が有効だというのは確かです。ジェイコブズの主張は逸話に依存していて実証されていないとよく言われるのですが、実はイタリアの研究者Marco De Nadaiによる実証研究があります。ローマ、ミラノなどの6都市を対象に調査したところ、イタリアで活力のある地域は、実際にジェイコブズのいう条件を満たしていることがわかったのです。

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