今回の講座では、町の活性化に取り組んだジェイコブズの行動を追体験すべくフィールドワークを行いました。実は、自分たちの暮らす町を実際に歩いて見直そう、というイベントは彼女の誕生日である5月4日前後に毎年世界各地で開催され、ジェインズ・ウォークと呼ばれています。今回のフィールドワークはそれに倣ったものです。
ではその様子を、後日受講者のSさんから提出していただいたレポートを交え、簡単にご紹介しましょう。
第1回 蔵前 2/6(土)
筑摩書房がある台東区蔵前は、江戸幕府の米蔵があった由緒ある町ですが、少し前まではビルに空き室が目立つなど、さびしい雰囲気でした。ただ、区が地域振興策として、ものづくりに関わる人々をサポートする環境づくりに乗り出してから、徐々に人が集まるように。今では御徒町―蔵前―浅草橋にかけてのエリアは「カチクラ」と呼ばれ、クラフトショップやカフェなどの新規出店が続いています。
最初にお邪魔したのは文具店「カキモリ」。オーダーノートが人気で、外までお客さんが溢れていました。大きな窓が切ってあり、外からノートの制作現場を覗くことが出来ます。ものづくりの様子を公開することが区のアトリエ化助成金支給の条件の一つになっていることから、この界隈にはこうした作業風景が見られるお店が増えています。
カキモリの展開には目を瞠りました。区の伝統産業支援の制度に則ったものとはいえ、マイ・ノートという日常手にするものに、伝統の装いを軽く添える、その接点に実演があるということにピンとくるものがありました。(Sさんのレポートより。以下同)
各種問屋の集まる国際通りと江戸通りを歩いたあとにお邪魔したのは、主に海外からの観光客が泊まるホステル「Nui」。古いビルを上手にリノベーションしており、カフェも併設しています。Nuiが出来てからこうしたホステルが続いて建ち、町にはずいぶん外国籍の人が増えました。これも蔵前の変化の一つです。
Nuiでレンタルされていた自転車は、トーキョーバイクという谷中を拠点に今では全国、そして海外に展開するブランドでした。自転車というと、ジェイコブズの『発展する地域 衰退する地域』でも日本の輸入置換例として登場していましたが、そのことを思い出しました。このトーキョーバイク自体、たしかアジアの一都市で製造されていることを思うと、輸入代替の輪がアジアに広がっていることを実感します。Nuiはバックパッカーの宿泊所とのことで、彼らがアジアのまた別の地でトーキョーバイクを乗り回す光景を思い、モノとヒトとのたすき掛けの関係を感じられました。(Sさん)
ものづくりの町づくりを牽引してきた「台東デザイナーズビレッジ」や、クラウドファウンディングで資金集めに成功したカフェ「SOL'S COFFEE」など、人が集まる場所を見た後に向かったのは、人のまばらな「佐竹商店街」と「おかず横丁」。
佐竹商店街は、かつて、新人のスリが練習する場所だったほど賑わっていましたが、現在はシャッターを下ろしている店舗がちらほら。おかず横丁も同様ですが、こちらには老舗のお米屋さんを改装して琉球陶器の人気陶工・照屋佳信の作品を販売する「工芸望月」など、ものづくり関係の店に人の流れがありました。
このジェイコブズの講座では、最後に研究報告会を開きますが、この佐竹商店街とおかず横丁の振興案というのも、課題の一つに設定されています。
第2回 田園調布・自由が丘 4/2(土)
ジェイコブズと同時代の都市計画家エベネーザー・ハワードは、郊外に職住接近の町を作るという「田園都市」構想を打ち出し、のちの都市計画に大きな影響を与えました。しかしジェイコブズはこれを批判、「一つの地区で機能完結させる必然性はない」「新開発ではコミュニティの継続性が無視される」「低密利用・用途純化で面白みに欠ける」などと主張しました。
実際はどうなのでしょうか。面白いことに、ハワードの都市構想を実現させた街と、ジェイコブズ的な街が隣り合わせになった地区が東京にあります。大田区の田園調布と目黒区の自由が丘です。この二つの町を歩いてみました。
まずはハワード型の都市である田園調布からです。田園調布駅の旧駅舎前に集合し、放射状の町を歩いてゆきます。有名人の豪邸をいくつか通り過ぎると、国分寺崖線に出ます。多摩川を眼下に見下ろす坂に立つと、田園調布が高台にあることを実感します。自由が丘に向かうために九品仏方向に向かうところで、空き地に遭遇。かつては大きな区画が保持されてきたようですが、売地はいくつかに分割されていました。時代の流れでしょうか。
九品仏商店街を抜け、浄真寺についたところで、今度はジェイコブズ型の都市の代表、自由が丘の町歩きをはじめます。メイプル通り、マリクレール通りと進んでいきますが、自由が丘の名前通り、整然とした田園調布とは異なり、狭い通りに、様々な業種のお店が立ち並びます。さくら祭りの開催時期ということもあって、人出が多く、大変な賑わいでした。田園調布ではあまり人とすれ違わなかったので、圧倒される感じもありました。
田園調布と自由が丘の違いをどう受講生が感じたか、後日の研究報告会が楽しみです。
第5回 5/27(金)19:00〜20:30「ジェイコブズ以降の経済学」塩沢由典
第6回 7/8(金)19:00〜20:30「研究報告と講師コメント」塩沢由典・宮﨑洋司
第5回、第6回ともまだ残席があります。連続講義ですが、もちろん途中から、1回のみでのご参加も可能です。どうぞ蔵前までお越し下さい。
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●歌舞伎座×ちくま大学 開催決定!
『すし 天ぷら 蕎麦 うなぎ──江戸四大名物食の誕生』(ちくま学芸文庫)の刊行を記念して、食文化史研究家・飯野亮一先生による講演を歌舞伎座で開催いたします。江戸の食文化を学びながら再現料理を味わう楽しいイベントです。ぜひご参加下さい。
第1回「そばがき」2016年6月18日(土)
第2回「そば前」2016年6月25日(土)
会場:歌舞伎座3Fお食事処花篭
受付:午後1時30分 講演:午後2時〜午後3時45分頃まで(食事時間含む)
■お申込み・お問い合わせは
歌舞伎座サービス株式会社 担当:西村・高野
電話:03-3545-6820(午前10時〜午後5時)