百年と一日

響きあう時間と場所と誰かの記憶(後編)

柴崎友香『百年と一日』の刊行を記念して、柴崎さんと柴田元幸さんの対談&朗読オンラインイベント「短編小説の魅力と朗読の悦楽」が本屋B&Bで開催されました(2020年10月11日)。柴崎さんの好きな短編小説とは? 『百年と一日』で戦争が描かれるのはなぜか? 後編では短編小説について、より深く話します。

レイモンド・カーヴァーとデニス・ジョンソン

柴田:今日は短編小説がテーマなので、柴崎さんが今まで短編小説をどういうふうに読んできたか、どういう短編小説にインスパイアされてきたかという話もうかがえたらと思うのですけど。

柴崎:はい。どういうものに影響を受けてきたかという話でいうと、ひとつ大きかったのはレイモンド・カーヴァーです。「ミニマリズム」と言われていますけど、レイモンド・カーヴァーの、本当にただそこにあるというか、場面が書かれているだけで、でもそこから想像できて書き込まれていないことも伝わってくる、あの感じが好きです。小説がこちらに手を差し伸べてくるというよりは、ただそこにあって、読んだあともすごく親しい感じになるわけでもなく、横に座ってる人みたいな感じの佇まいというか。レイモンド・カーヴァーのなかで、例えば「ダンスしないか?」だと、ガレージセールで家の家具を全部庭に出してる人のことは、読み終わったあとも全然分からないですよね。

柴田:出てくる女の子も、自分が何を言いたいのか分からないまま終わっちゃう。

柴崎:そう。ある種、読んだ人を突き放すような感じがあって、小説にはこういうことができるんだということを教えてくれた作家ですね。

柴田:カーヴァーの他にはどうですか?

柴崎:『百年と一日』に通じる話でちょっと変わった短編でいうと、カフカの短編で断片みたいなのがありますよね。あの急に変な状況とか変な生き物がいて、ただ終わってくという感じが好きです。あと人間の描き方では、チェーホフの短編が好きです。ちょっと俯瞰して見ているというか、それこそ神の視点のような、「人間が下界でなんかいろんなことやってまーす」みたいな距離感が好きですね(笑)。柴田さんが翻訳されているのだと、デニス・ジョンソンはすごく好きです。

柴田:デニス・ジョンソンはどういうところに惹かれますか?

柴崎:特に『ジーザス・サン』(白水社)がそうですけど、ひと言で何か凝縮されたような密度の濃さと言ったらいいのかな、一言ひと言にある圧倒的な感覚ですね。

柴田:彼の小説に出てくる人がみんなアウトローだったり、社会的には落伍者っていうか、友達にするのは困るなみたいな(笑)、そういう社会性みたいなことは、あまりポイントではない?

柴崎:いや、そこもポイントです。駄目な人が出てくる小説は基本的に好きなので(笑)。彼の場合は、社会的にはみ出してる人でも、ユーモアがあるじゃないですか。そこがけっこう重要で、『ジーザス・サン』も一歩間違えると、人生うまくやっていけない人をもっと自虐的にとか、自己憐憫みたいな書き方になりそうなところを、そうならずにちょっと笑えるところがある。そこがとても好きなんです。人に対する小説の中の語り手の距離感みたいなものが、たぶん自分にとっては重要かなと思いますね。

柴田:逆に苦手な短編小説はありますか? 例えば、O・ヘンリーみたいにきれいにオチがあるとか。

柴崎:ああ、そうじゃない方がいいです。因果関係がピッタリこない方が。

柴田:柴崎さんは「かわうそ堀」の怪談もお書きになっていて(『かわうそ堀怪談見習い』角川文庫)、柴崎さんの小説にはしばしばどこか怪談的な要素があると思うんですけど、その怪談も今おっしゃったような意味で、因果関係にほころびがあるものが奇譚・怪談というかたちで出てくるというタイプですよね。

柴崎:そうですね。怪談とかホラーが好きなのは、ひとつには、最初に話したように、場所と時間が絶対関係してるからなんです。でも、怪談でも原因があって復讐されるみたいじゃないほうがいいですね。とばっちりみたいな方法で人が恐がらされたりとか、その理由がわからない方が好きなんです。

対談の様子
 
 

 

2020年11月24日更新

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柴崎 友香(しばさき ともか)

柴崎 友香

1973年、大阪生まれ。2000年に第一作『きょうのできごと』を上梓、04年に映画化される。07年に『その街の今は』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞、10年に『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、14年に「春の庭」で芥川賞を受賞。他の小説作品に『虹色と幸運』『パノララ』『わたしがいなかった街で』『週末カミング』『フルタイムライフ』、エッセイに『よう知らんけど日記』『よそ見津々』などがあり、著書多数。

柴田 元幸(しばた もとゆき)

柴田 元幸

1954(昭和29)年、東京生まれ。アメリカ文学者。東京大学名誉教授。翻訳家。『生半可な學者』で講談社エッセイ賞受賞。『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞受賞。トマス・ピンチョン著『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞受賞。ポール・オースターなどアメリカ現代作家を精力的に翻訳するほか、文芸誌「Monkey」の責任編集を務めるなど、幅広く活躍中。

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