ちくまプリマー新書

英語学習を始める前に知っておくべき、最も重要な考え方をお教えします

『バッチリ身につく 英語の学び方』より本文を一部公開

英語の学習は、「基本」をコツコツやるしかない……。でも、どうやって? さまざまな学習法や参考書がたくさん出ていて目移りしてしまう今日この頃、いちばんいい勉強の仕方って意外とわからないものです。そんななか、「ことばの基礎体力」をつける効果的な方法を知ることを目的とした一冊『バッチリ身につく 英語の学び方』(ちくまプリマー新書)が刊行されました。著者は異例のベストセラー『ヘミングウェイで学ぶ英文法』で知られる倉林秀男先生! この記事では本書の第一章を一部お届けします。

「一輪車に乗りながら両手で皿回し」

 私たちは毎日「ことば」を使って生活しています。朝起きて、家族に「おはよう」と言い、テレビの天気予報でその日の天気をチェックしたり、スマホでSNSを見て「いいね」を押したり、今の気分を投稿したり、友だちからのLINEのメッセージを読んで、返信しています。学校に行けば、友だちと話をしたり、授業を受けたりしています。もちろん、一人でいるときも頭の中でいろんなことを考えています。こうした活動に「ことば」は欠かせません。そうです、「ことば」は私たちが生きていく上では絶対に必要なものなのです。

 私たちはどのように「ことば」と関わって生活しているのでしょうか。学校の授業を例に考えてみましょう。

 みなさんは、授業中、先生の話を聞き、教科書を読み、大切なところには線を引き、黒板に書かれた文字や先生が話した大切なところをノートに書きます。グループで話し合い、先生の質問に答えます。さらに、教科書の本文を音読することもあるでしょう。テストでは、問題文を読んで、考え、正解を書くことをします。ときには周りの友人とおしゃべりをしたり、手紙を書いて回したりしています(いまどきはこっそりスマホで連絡を取っているかもしれませんね。褒められたものではないかもしれませんが)。

 このように、私たちは特に意識をすることなく、耳も、手も、目も、口も同時に使いながら言語活動をしています。たとえて言うならば、「一輪車に乗りながら両手で皿回しをしている」感じです。とっても大変なことで、かなりの練習が必要になりますよね。

 しかし、一輪車も、何度も練習して乗れるようになりさえすれば「どのように乗るのか」や「バランスをどうやって取ればいいのか」ということを考えずに、「自然に」できるようになります。最初は時間がかかるのですが、いったん乗れるようになり、それが「身体化」してしまえば、苦労せずに乗れるわけです。

母語だって身につけるのは実は大変

 みなさんの中には、「ことばを使うのは簡単だよ。わざわざ習わなくてもできるようになったんだから」と思う人もいるかもしれません。ですが、母語ではなく、外国語で同じことができるでしょうか。英語で授業を聞きながら大切なところをメモしたり、先生の質問に答えたり、グループディスカッションをしたり、レポートを書いたりという、これまでできていて「簡単だと思っていた」ことが、突然難しくなります。普段から外国語に触れる機会がない人たちが、その外国語を使えるようになるには、それ相応の努力と経験、時間が必要なのです。

 日本語の場合は、ほとんどの人は生まれてから今日に至るまで、毎日言語に接してきました。学校の授業だけではなく、家ではテレビを見たり、マンガや小説を読んだり、家族や友達と話したり、スマホでコミュニケーションを取りながら日本語に触れてきたのです。

 さらに、漢字を読んだり、書けるようになるまでには、ドリルで学習をしたり、学校の漢字テストのために練習をしたり、間違えたところは何度も書くことで覚えてきました。ほかにも教科書の音読、作文などの課題を通じて、文字を読んだり書いたりしていくうちに、徐々に漢字の意味がわかり、読めるようになり、さらには書けるようになっていったはずです。

 それでも、長年日本語に接しているにもかかわらず読めなかったり、書けなかったり、意味がわからない漢字や言い回しがありますよね。また、作文を書いていても、自分の頭の中で考えていることを上手に表現できないと感じることがあります。このように、毎日触れている日本語であっても様々な場面で困難に直面しますので、外国語ができるようになることはとっても大変なことなのです。

言語活動の「土台」として必要な要素

 そして、英語学習がうまくいき、テストでも良い点が取れるようになり、ちょっとはできるようになったと思っても、自分よりも遥かに英語ができる「達人」に出会い、自分の力のなさにショックを受けることもあるでしょう。自分の頭の中にある「言いたいこと」を10とすると、英語で言えるのはそのうちの3とか4ぐらいで、「言えないことが多くてモヤモヤする」という気持ちになったことがあるかもしれません。

 なぜ、「言いたいこと」が英語で言えないのでしょうか。学校教育のせいでしょうか? 学校の英語の授業で、重箱の隅をつつくような文法を取り上げているからでしょうか? 会話の授業が少ないからでしょうか?

 違います。ここではっきり申し上げておきますが、学校の英語の授業で学ぶことは全部大切なのです。学校で学んだことをきちんと吸収することで、英語を使う「土台」が強靭なものとなるのです。スポーツに例えるなら、学校の授業は「足腰を鍛える」ために重要なものだということです。

 私が英語学習をはじめてまだ数年しか経っていない中学2年生の頃でした。ALT(Assistant Language Teacher)の先生と会話をするとき、自分の思っていることをいきなり英語で言うことができないので、自分の順番が回ってくるまでに、何をどうやって言えばいいかあれこれ考えて、頭の中で何を言うかまとめてから、話をしたことを今でもはっきり覚えています。

 そのとき、頭の中にある「言いたいこと」を英語に直すために、言いたいことに近い意味を持つ「単語」を確認し、それを英語の「語順」に並べ替え、声に出さずに何度も頭の中で英文を繰り返し唱えてから、先生に話をしました。いまでも、ちょっと英語で難しいことを言おうとしたときに、同じように、頭の中にある単語のストックから選び出し、英語の語順にしてから話すことがあります。

 私は、常に頭の中で英語を話す場合は「単語」と「文法・語順」の知識をフルに活用しているのです。もちろん、英語を聞いたり読んだりする場合も同じです。「単語」と「文法・語順」の知識が絶対に必要なのです。

 さらに、ただ単に単語を知っていてもだめです。相手が「話していること」をきちんと聞いて理解しなければなりません。つまり、「どのように発音されるのか」という音に関する知識も必要なのです。もちろん、「文字」に関する知識も必要です。

 ことばを聞いたり、読んだり、書いたり、話したりすることを「言語活動」と呼びます。この言語活動を成り立たせるためには強靭な土台が必要となります。それが「語彙(発音・綴り・意味)」と「文法・語順」に関する知識です。単語や文法に不安があると、言語活動がうまくいきません。ですので、言葉の学習とは、地道に土台を積み上げていくことなのです。

語彙が増えると見える世界が変わる

 そこで、「言語活動」を行うためにも、強靭な土台を作り上げていくトレーニングをしていかなければなりません。この土台のひとつである「語彙」について、言語学者の金田一秀穂先生は次のように語っています。

語彙は、デジカメに例えるなら画素数です。語彙が豊富であれば、世の中の出来事をより正確に、鮮明にとらえることができます。(『日経Kids+』、2009年1 月号、53 ページ)

 金田一先生の話は外国語学習にも当てはまります。語彙数が増えれば増えるだけ、情報を的確に得ることができるだけではなく、伝えられる情報の精度が高まっていきます。やはり、外国語学習をする上で避けて通ることができないのが、語彙を増やしていくことなのです。

 そこで、語彙数が多ければ多いほど、見える世界が変わってくるということをイメージしながら、語彙の学習をしていきましょう。難易度の高い語をたくさん覚えるということも必要かもしれませんが、まずは比較的多く目にする単語をしっかり定着させていくことが重要になります。

文法の力

 ここで問題です。次の文の意味を考えてみてください。

 The old man told the story cried.

 どうでしょうか。すべての単語の意味はわかりますよね。The old manが「その老人」、toldは「話した」、the storyは「その物語」、criedは「泣いた」という意味だということで、「「その老人」は「その物語」を「話した」そして「泣いた」」というような日本語を作り上げてしまった人、いませんか?

 The old man told the storyまで読んで「老人がその物語を話した」と考えていると、いきなりcriedという動詞が出てきて、「あれ?」ということになりますね。そのときは一度toldまで戻って考え直してみます。動詞のtoldには「過去形」と「過去分詞形」が同じ形をしているので、最初は「過去形」で読んでみたわけです。ですが、「なんかちがう」と思ったときに、toldの「過去分詞」としての働きを考えてみるのです。

 そうすると、toldが過去分詞の形容詞的用法としてthe old manを修飾していることに気がつきます。つまり、The old man([who was] told the story)cried.「その物語を聞かされた老人は泣いた」という意味になるのです。つまり、この英文解釈で学べることは「動詞の過去形と過去分詞形が同じ形をしているときは、過去形なのか、それとも過去分詞形なのかを意識する」ということなのです。

 この文は「単語は知っているけれど、文法がわからないと意味がつかめない」ということを教えてくれます。つまり、「文法」という土台がしっかりできていないと、言語活動が揺らいでしまうのです。

 文法学習は「理屈」中心で、退屈なように思われるからかもしれませんが、ルールをきちんと理解していれば、話したり、聞いたり、書いたり、読んだりすることに「適応」させることができます。文法の理解が、その後の言語活動に大きな武器になるのです。


 

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