第十一章 第5000年紀後半の世界、その3
18世紀の世界(1701年から1800年まで)
この世紀は、産業革命とフランス革命の世紀です。18世紀は清を除くアジアの三つの大国が一様に衰退に向かい、ヨーロッパが舞台の中央に登場してきた時代でした。
ヨーロッパでは王位継承問題を契機にフランスとイングランド(兼スコットランド。以下同様)の対立を軸とした戦争が相次ぎ、スウェーデンや老大国オーストリアが徐々に弱体化するとともに、新興のロシアやプロイセンが勃興してきます。そして豊かな海軍力を背景にしたネーデルラントや、アメリカが新たな強国として登場してきます。
また、世界初の工業化である産業革命が、たまたまイングランドで起こったことによりイングランドの生産力が飛躍的に向上しました。産業革命は、人類の夢であった「気候」から人間を解放したのです。産業革命は次から次へと飛び火しヨーロッパの列強の躍進を支える原動力となりました。
アジアの大帝国は、まずムガル朝がデリー周辺をかろうじて支配する一勢力に転落し、サファヴィー朝は1736年に滅びました。オスマン朝は、改革は行われましたが大きな成果はなく、腐敗と弱体化がいっそう進みました。
18世紀のヨーロッパでは、自然権や平等権、社会契約説、人民主権論など理性による人間の解放を唱える啓蒙思想が広まっていました。この動きは、アメリカ独立革命やフランス革命に結実します。市民革命が起こり、市民社会への流れが始まりました。
一方で、プロイセンやロシア帝国では啓蒙専制君主が登場し、上からの近代化が進められました。いずれにせよ、18世紀の世界を象徴する産業革命とフランス革命がこうして登場した訳です。
18世紀は、また、電気技術の夜明けの年でもありました。18世紀に開花した電気技術は19世紀において、現代の生活に欠かすことのできない電話機、モーター、発電機、白熱電球などの発明に繫がっていきます。
18世紀の音楽は、大音楽家たちが生きた時代です。火山の噴火はアイスランドのラキ火山(1783年)、浅間山(天明大噴火。1783年)が立て続けに起こりました。
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第十二章 第5000千年紀後半の世界、その4
19世紀の世界(1801年から1900年まで)
「真のフランス革命」は1789年に始まり1848年のヨーロッパ革命で終わりました。約60年かかった計算になります。200万人に及ぶ尊い命が失われました。国王はいなくなりました。体制の変更にはこれだけかかるということです。
明治維新は1868年に起こりましたが、戊辰戦争を含めて、長くて一年、死者の数は1・2万人でした。天皇がいて開国富国強兵で一致していたからです。クリミア戦争が起こったことも好運でした。
アメリカは市民戦争(南北戦争)を戦いました。1861年から65年まで4年間、戦死者の数は61万人余に及びました。ちなみに第二次世界大戦でのアメリカ軍の戦死者数は40万人余です。今でも市民戦争以上の戦死はありません。これは「自由貿易」か「保護貿易」かを、かけて争ったからです。
フランスは、第二帝政で少し足踏みしましたが、そのあとずっと共和政を続けています。現在は第五共和政です。
フランスおよびアメリカは革命戦争、市民戦争を経て強くなりました。同時にフランスおよびアメリカでは「想像の共同体」が出来上りました。遠くにいる人は会ったことはありません。それでも同じ国民だということになれば何となく親しみが湧いてきます。言語が同じで、敬愛する人が同じで(例えば天皇など)、歴史が同じで「市民」感覚が同じであれば、「想像の共同体」の出来上がる確率はもっと高くなります。拍車をかけたのは、新聞をはじめとするメディア革命でした。
もう一つ同じような概念があります。「国民国家」です。主権国家において、国民主権が確立し、憲法と議会制度が実現し、一元的な統治国家となった国家をいいます。また国家が成立するためには、主権、領域、国民という三つの要素が必要です。なお、それを主権国家として成立する国家概念やそれを成り立たせるイデオロギーをも指しています。ヨーロッパにおいては1848年ヨーロッパ革命ののち、つぎつぎと「国民国家」が成立しました。ドイツ帝国とイタリア王国はその代表です。
この二つの理念は相まってヨーロッパを指導的地位に押し上げる要因となりました。
(続きは本書にて)
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『人類5000年史Ⅴ――1701年~1900年』
【目次】
第十一章 第五千年紀後半の世界、その3
一八世紀の世界(一七〇一年から一八〇〇年まで)
(1) プロイセン王国とロシア帝国の台頭
スペイン継承戦争とプロイセン王国の誕生/多くを失ったフランスとスペイン
大北方戦争とロシアの台頭/内閣の始まり
/アウラングゼーブの治世のその後
名君雍正帝/ダライ・ラマに土地を寄進/「最後の征服者」ナーディル・シャーの時代
ポーランド継承戦争/オーストリア継承戦争/外交革命と七年戦争
(2) 産業革命と乾隆帝
産業革命/両腕を切り落とされたインド/中華帝国の最後の輝き、乾隆帝の時代
インドの黄昏/ポーランドの悲哀/ガージャール朝の誕生
ポーランドが姿を消す/乾隆帝の時代の終幕
(3) アメリカの独立とフランス革命
揺れるアメリカ/アメリカの独立/フランス革命前夜/フランス革命
ロベスピエールの独裁/総裁政府とナポレオンの台頭
第十二章 第五千年紀後半の世界、その4
一九世紀の世界(一八〇一年から一九〇〇年まで)
(1) ナポレオン帝国からウィーン体制へ
皇帝ナポレオン一世/ナポレオン一世の絶頂/スペインの反乱
ナポレオンの没落/会議は踊る、されど進まず/ウィーン体制という反動
シモン・ボリバルによるラテンアメリカ独立運動/モンロー宣言
フランスでは一八三〇年に七月革命が起きる/グレート・トレック
ヴィクトリア女王の治世が始まる/グレートゲーム/アヘン戦争
ビーダーマイヤーの時代/一八四八年のヨーロッパ革命、「諸国民の春」
ナポレオン三世の登極/クリミア戦争/オスマンのパリ/イタリアの誕生
市民(南北)戦争
(2) 清と日本の内憂外患
太平天国の乱と日本の開国/連合王国の横暴――アロー戦争とインド大反乱
桜田門外の変/明治維新/岩倉使節団
(3) 国民国家の誕生
宰相ビスマルクによるドイツの統一/ビスマルクの調整能力/松方デフレ
新航路は波高し/日清戦争/一九〇〇年の世界