冷やかな頭と熱した舌

第18回 
母さん、ぼく店長になるよ。

全国から注目を集める岩手県盛岡市のこだわり書店、さわや書店で数々のベストセラーを店頭から作り出す書店員、松本大介氏が日々の書店業務を通して見えてくる“今”を読み解く!
 

◆さわや書店ホームページ http://books-sawaya.co.jp/
◆さわや書店フェザン店ツイッター 
https://twitter.com/SAWAYA_fezan

 

■店長の責任と自己評価の低さ(とスネ夫)

 新店舗の店長を任されることになったらしい。誰がって、この僕が。
 最初にその話を聞いた時、マジメンドクセエナと言語化されるよりも早く脳が反応した。たぶんその思いは、瞬時に地球を7周半はしたんじゃないだろうか。「考えるな、感じろ」というアドバイスを初めて実践できたと思う。

 自分という人間について、そんなには多くないけれど、節目、節目で考える機会があり、考えるごとに自己評価はことごとく低く、より低く更新され、最近じゃ地面すれすれのあたりをさまよっている。引き下げられ続けている日本国債の格付けも、僕から言わせてもらえばちょっとした「誤差」程度である。体重100キロのふくよかな人が99キロになったくらいのものだ。その例で言ったらこちらはもはや骨と皮といった有様である。
 そういえば、『ドラえもん』に登場する骨川スネ夫は、なぜ「皮」ではなく「川」なのだろうと疑問に思って調べてみたことがある。その疑問を解くカギは、じつは彼の子孫にあった。スネ夫の22世紀の子孫と思われるスネ夫によく似た少年は、その名をミエ吉という。彼はのび太の子孫であるセワシの友人だ。のび太側の名前に着目すると、「のびのび」から「せわしない」という、いわゆる様子の変化が活かされているとの推測が成り立つ。その仮定が正しいとすると、スネ夫側は「拗(す)ねている」から「見栄(みえ)をはる」という、2世紀をまたいだ開き直りの変化が名前から推測される。つまるところ、スネ夫の「スネ」は脛ではない。だから「骨と皮と脛」だと考えていた人は、誤ったイメージなので訂正していただきたい。……ちょっとなにを書いているのか分からなくなってきたが、半分は照れ隠しだ。
 責任ある立場は面倒くさいと言いつつ、他者に評価されると多弁になる。

■行動力を伴わない人間

 自己評価について話を戻そう。
 社会に出て、本を読みながら少なくない時間を過ごし、最近になってやっと自分に目を向けて気づいたこと。それは自分が、行動力を伴わない人間であるという事実だ。何事かを思いついたとしてもやらない、この抜群の安定力。その回数が他人に比べてなんと多いことか。周りの人々はいつの間にか何やら新しいことに取り組んでいて、そのことをだいぶ後になって知る。
 例えば、中学校の同級生はいつの間にかホリエモンの腹心になっており逮捕されたし、高校の友人はいつの間にかキックボクシングを始めてある団体の日本チャンプになっていたし、大学の友人はいつの間にかアメリカに渡ってトランプを支持していたりした。いつの間にかがなんと多いことだろう。自分がウサギに置いていかれていることにすら気づかないとはカメ以下である。
 たしかに僕だって冒険心に富んだ一生っていいな、と思ってはいる。しかし残念ながらそれよりも、だらだらとした日常が永遠に続くことを願う気持ちが心の大半を占め、実際そのように日常を過ごしてきた。ドキドキやスリルは、冒険もののフィクションで事足りてしまう人生。だから、興味を持ったことであっても様子を窺っているうちに機会を逃すことがほとんどだし、新しくできた飲食店はだいたい横目で窺いながら前を通り過ぎる。誰かに誘われれば行くのにやぶさかではないが、一人で入店することはない。

『はじめての人のための3000円投資生活』 横山光昭著 アスコム刊

  実用的な本を読んでいて「いいな」と思うことがあっても、後回しにした結果ほとんどやらない。ちょうど半年前くらいに『はじめての人のための3000円投資生活』(横山光昭・アスコム)を読んで「これはやろう!」と心に決めたが、いまだに取り掛かかっていない。そうこうしているうちに、正月に店を訪ねてきた後輩とたまたま投資にと話が及び、「知識」としてその本の内容を話したら、後輩はすでにその本を読んで投資生活を「実践」していた。この差は大きい。またも出遅れたが、そんな生き方が染みついてしまっている。もはや三日坊主の背中すら遠くに見える日々。なんて腰が重いのだろうと、自分のことながらあきれる。ついでに重い腰は慢性的に痛い。そんな僕が店長である。

■行動力のなさは「○○の欠如」

 今回、店長になるにあたって迎えた「節目」で、あらためて自分について考えてみることにした。そんななか、就任したらこうしよう、ああしよう、こんなこともやってみたいと考えながら、気づくべきではなかった一つの疑問に行きつく。いま、あれこれ考えているこれらのことを、果して自分は本当に実行するのだろうか。ヤバい。どうしよう。7:3ぐらいでやらない気がしてきた。これはやらない原因を突き止めて、今のうちに根治療法を施すしかない。そう決意してからずっと、僕はどうして行動に移すことができないのだろうと考えている。
 考えることすら面倒くさがりながらも仮説として挙げたのは、行動力のなさは「情熱の欠如」から来るものではないかということだ。その理由は、本屋で一生懸命働く人たちと出会い、触れ合う機会が増えたからだった。みんな一様にアツい想いを持って働いている。他店の人々と交流する前の僕は、書店で働く人々がそんなアツい志と行動力を持っていると思っていなかった(伊藤清彦元さわや書店店長を除く)。だって本屋で働くことを選択した人なんて、自分と同様にコミュ障で、怠け者であるだろうと漠然と思っていたからである。本屋に勤めようと考えた当時の自分を振り返って想像してみると、僕のなかで浮かび上がってくる人物像は自ずと下記のような人々になる。

何となく本屋は楽そうだと考えている
(=本を並べておけばお客さんが勝手に買ってってくれる)
人と接するよりは本を読んでいたほうがいい
(=消極的選択の連続でたどりついた)
本屋で働くとレジを打つ時以外はカウンターの椅子に座ってマンガを読めるのではないかと考えている
(=昔、実家の近くにあった本屋はそうだった)
体力には自信がないが、知力はなかなかだと思っている
(⇔じつは体力こそが必要である)

 これら不純な動機で働き始めた輩は、たぶん3日と持たないだろう。実際は情報交換のために人と会いながら寝る時間を削って本を読み、売り場でバリバリ働いて、知力と体力の限りを尽くす。そのうえ皆、少なくない情熱を燃やして売り場づくりに勤しみ、エンジン全開で業界の未来を愁えている。全員アツオ(熱男)とは言わないが、そんな人物が何人もいる。
 

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