冷やかな頭と熱した舌

番外編①
店長日記

今回は普段の連載をお休みさせていただき、連載内コラムとして好評の〈店長日記〉を番外編としてお送りします!

〈ORIORI produced by さわや書店〉の開店まで1週間を切った今、店長の松本さんはどんな業務をこなしているのでしょうか?

■店長日記④

4月21日(金)
新店舗で一緒に働く竹内・現本店店長と、本店近くのサンマルクカフェで打ち合わせ。在庫冊数がまだ大幅に足りないことを伝えると、「松本さんが、ほとんど一人で発注していたんだからしょうがないよね」と慰めてくれた。本店での業務の合間を縫って、発注に時間を割いてくれるという。ありがたい。ここに来る途中に、自転車に轢かれそうになったという話をすると「相手の人が可哀そうだったね」と謎のコメント。予測のつかない人と一緒に働けるスリルに、得も言われぬ喜びを感じる。

4月22日(土)
翌日が休みなので、ひさしぶりに本を購入する。手元の集計によると8日ぶりである。新店舗の準備作業に携わると、確実に書店員生命を縮めることになると再認識。加えてコーヒーの飲みすぎで頻尿である。残尿感もひどい。これも新店舗の準備作業のせいにしておこう。けっして加齢のせいではない。

4月23日(日)
昨日購入した本、『人はなぜ物語を求めるのか』(千野帽子 ちくまプリマ―新書)を読む。Webちくま連載時からチラチラと読んでいたが、本にまとまったら破壊力がハンパじゃなかった。新店舗のコンセプトにも「モノガタリ」が入っているが、店を訪れたお客さんに必ず1冊買っていただきたい本だ。後日、発注しようとしたところゴールデンウィーク明けに重版出来とのこと。営業担当のH賀さんに、「新店舗でぜひ……」と事情を話して確保してもらった。

4月25日(火)
日本経済評論社のT村さんとランチしながら『母子世帯の居住貧困』(葛西リサ 日本経済評論社)という本について語り合う。貨幣の多寡が人を量るモノサシとして用いられる世の中にあって、経済活動に奴隷のように組み込まれている私たち。母子世帯はその荒波に母1人で立ち向かわなくてはならない。結果、子どもと向き合う時間を削らざるを得ない。真に「生きる」という意味を、新店舗において問題提起できたら。

4月27日(木)
大チョンボをやらかした。新店舗の追加発注を煩わしさから「本店仕入れ」で決行したのだが、本店の諸々の数値と、仕入れに対する支払いの算段が狂うという結果を招く。新店舗の在庫金額を増やさなければという焦りが生んだミスである。経理担当部長から絞られ、しかも本店から新店舗へ移動する段ボール箱が50箱……。余計な手間を増やしてしまった。

4月29日(土)
休日だけど仕事をしにフェザン店へ。予想より早く片づけることができ、夕方からお花見に出かける。桜を見ると、「願わくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃」という西行の歌を毎度のことながら思い出す。子すらも振り払って出家した西行。僕もすべてを投げうちたいとの誘惑にかられる。ちなみに、この歌のポイントは、あまり注意を向けられない「その」であろう。「どの」という問いへの答えは「自分が死ぬ年の春」の。終わりを見すえて今を生きること。余談だがすべての「綾子」を代表するのは「曽野」だと思う。

5月1日(月)
出版社に注文の電話をかけると、皆さん高確率で出社されていた。ゴールデンウィークの谷間だというのに、出版業界は働き者の多いことよ。

5月2日(火)
予想していたよりも早く仕事が仕上がり、明日から4連休を取れることに。何をしようか。

5月3日(水)
休み。起床後、無計画に北へと車を走らせる。途中、八幡平市の不動の滝を見物し、午後6時に青森港に到着。宿はない。情報収集後、深夜2時30分出港の函館行きフェリーに乗ることにする。

5月4日(木)
6時20分函館港に到着。JR函館駅に隣接する朝市へ。海鮮丼で朝食の後、歩いて旧函館区公会堂へ。「函館の蔦屋書店さんに行きたい」と家人に主張するも、聞き入れてもらえずに辛酸をなめる。宿を探すもゴールデンウィーク中で満室。函館山に登って夜景を見たその足で、帰りのフェリーに乗船。深夜0時30分青森港着。高速道路を南下して盛岡に着いたのは3時30分だった。眠い。

5月5日(金)
午後に起き出して読売新聞地方版の書評原稿を書く。函館行きで予期せぬ出費がかさんだので働いて稼がなければ。それにしてもせっかく函館に行ったのに、蔦屋書店さんに行けなかったのは残念だったとクヨクヨする。夏の函館競馬が開催している週に行くという野望を燃やす。

5月6日(土)
ゴロゴロして休みをムダにする。

5月7日(日)
ゴールデンウィークに休んだので打ち合わせの嵐。開店準備のシミュレーションや、新店舗のスタッフとの確認事項、テナントビルへの申請書類、細々とした備品の発注打ち合わせなど。

5月8日(月)
新店舗で使用するPOPやジャンルサインなどの最終打ち合わせ。お客さんの反応を想像してドキドキする。書店で使用するAR(拡張現実)アプリ「POPSTAR」も期間限定で取り入れる予定。アプリを起動してカメラを店内のある場所へ向けると、現実世界にはないPOPが現れるという仕組み。その他にもORIORI店ならではのパネルやフェアでスタートダッシュを決める予定。

5月9日(火)
5月12日の夜から始まる「開店準備のスケジュール」作りをすすめる。開店日である5月19日(金)までトラブルなく進行しますように、との祈りを込めながら作成してゆく。在庫金額は何とか目標金額に届いた。

「ORIORI produced by さわや書店」の店内イメージ図 オープンは5月19日(金) 多数のイベントも計画中。

 過去の店長日記もご一読を!!
〈店長日記①〉
〈店長日記②〉
〈店長日記③〉


「ORIORI produced by さわや書店」のイベント情報等は→http://books-sawaya.co.jp/index/

関連書籍

葛西リサ

母子世帯の居住貧困

日本経済評論社

¥3,190

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