5月19日に盛岡駅ビル、フェザンに2店舗目の出店をするさわや書店、そのフェザンⅡ号店(仮)店長を務めることになった松本大介さんによる開店までの道のりを〈店長日記〉として公開します。
本屋の店長は、その任を受けて開店までにどんな準備、業務をしていくのか? ぜひご一読ください。
■店長日記②
3月10日(金)
休日。以前から予約を入れていた歯医者に行くために取った休みだったが、選書作業をやらなくていいので相対的に喜びに満ちた通院となる。まさか歯医者に行くほうが嬉しい日が僕の人生に来るなんて。寝不足もあって、麻酔をしたわけでもないのに口を開けながら診察中に寝ていた。休日の残りはWebちくまの原稿を書いて潰れる。僕の人生って……。
3月11日(土)
もう6年。まだ6年。
3月12日(日)
なんと、いま京都にいます。絶対おいでやすって言われたい。
新店の参考にしようと、田口店長と一緒に自費で京都・大阪を回ることに決めたのです。
京都駅構内のふたば書房さん、三省堂書店さんにお邪魔して京都本を物色。同じく駅構内のくまざわ書店さんを見学してから大垣書店烏丸三条店さんへ。京都という土地柄なのか芸術書のコーナーの充実ぶりに目を見張る。楽しみにしていた三月書房さんの棚を隅から隅までなめるように見た後、業界で働き始めた頃からずっと行ってみたかった恵文社一乗寺店さんへ。お客さんの多さとリトルプレスの充実ぶりにびっくり。田口店長がどうしても行きたいと言っていた「天下一品総本店」で遅い昼食。ガケ書房さんの跡地を見ながらバスと地下鉄で京都駅へと戻り、京阪本線で宿泊地である大阪へ。おいでやすって言われなかった。
京都競馬場のある淀駅で思わず下りそうになる衝動をこらえながら大阪着。
紀伊國屋書店梅田本店さん、ブックスタジオさん、紀伊國屋書店グランフロント大阪店さんと見学して、同店のHさんとY本さんとご一緒させていただきながら大阪の夜は更けていった。
3月14日(火)
午前から夜まで打ち合わせ。夜に閉店間際のスタンダードブックストア心斎橋店さんへ駆け込む。アメリカ村が近くにあることに僕の脳が影響を受けたのか、アメリカにある店にいるような錯覚に陥る。道頓堀の「グリコ」の背景って変わるんですよ!はじめて知りました。
3月13日(月)
以前、宮下奈都さんのイベントをフェザン店で催した時に駆けつけてくれた、ブックファースト梅田2階店のM口さんと一緒に、なぜか通天閣へ。田口店長のリクエスト(圧力)。坂井希久子さんの『泣いたらアカンで通天閣』(祥伝社文庫)を思い出す。M口さんから飛田が近いことを聞き、近くまで行ってみたいと思っていたが時間的に叶わず。『さいごの色街 飛田』(新潮文庫)の井上理津子さんが、以前フェザン店に来てくれた時に「行ったほうがいいよ」と強く薦めてくれていただけに心残りとなった。残念。スタンダードブックストアあべの店を見学後、田口店長が長谷川書店水無瀬駅前店に行きたいと言い出す。いつも突発的にわがままを言う人である。
新大阪発の新幹線のチケットを京都から乗車することにすればギリギリ間に合うことが判明し、行くことになった。京都に戻るなら、おいでやすって言われたい。M口さんに案内してもらいながら水無瀬駅に到着。なんとM口さんは夜のシフトが入っているため、滞在5分でとんぼ返りするという。本当にごめんなさい&ありがとうございます。
長谷川書店さんで2冊本を買う。いや、買わされたというべきか。隅々まで意思の通った棚に食指が動いたのだった。この旅行代金の支払いでお金がないのに……。店主のHさんはJR線の駅まで送ってくれて、道中いかにこの街が好きかということを熱く語ってくれた。さらに、歩きながら読書する話で意気投合。
午後3時半ぐらいに京都を出て、盛岡についたのは午後8時半だった。
3月17日(金)
盛岡駅の「南館」が「おでんせ館」へと、名称を変えてリニューアル。改装工事により離れ小島となっていたさわや書店フェザン店にもお客さんが足を運んでくださった。リニューアルはしていないけど、分断されていた通路の開通効果でてんやわんや。お客さんが戻ってきてくれたことにほっとした。僕は隔離されて選書に勤しむ。
3月21日(火)
これから一週間、新店舗のアルバイトスタッフの面接が始まる。どんな人が応募してきてくれるのだろう。胸が高鳴る一方で、皆から慕われていたパートのM木さんが、旦那さんの転勤により退職することに。夜、フェザン店の社員スタッフ勢揃いでバカ騒ぎした。なごり雪が降っていた。
3月23日(木)
日にちの感覚と曜日の感覚があやふやになってきたことに気づく。まだ20日くらいだと思っていた。これは雑誌の荷解きをしなくなったことと無関係ではないだろう。キャンキャン、ジェイジェイ、ビビ、レイ、スプリング。
3月28日(火)
アルバイトの面接が終了。彼らの人生の一端を背負わなければならないのだ。頑張ろう。
3月30日(木)
選書の提出様式に勘違いがあったことが発覚。すべてやり直すことに。「コピペの作業に費やすため一回休み」か。「人生ゲーム」をやると毎回、「人生最大の賭け」に敗れて「開拓地行き」となる本領をリアル人生においても発揮した。
3月31日(金)
今年度が終わっても、僕の選書は終わらない。