ちくま新書

「うまい文章」を書こうとしない!

「文章とは何か」という本質に気づけば、誰でも「人に読んでもらえる文章」はすぐに書けるようになる。30年プロのライターをしてきた著者が、蓄積してきた秘訣を教えます。2019年2月刊行の新書『これなら書ける! 大人の文章講座』の「はじめに」を公開します。

「文章をどう書けばいいのか、教えてほしい」
 三〇年近く、文章を書く仕事をしているからでしょうか、こんなふうに聞かれることがときどきあります。
 書くことへの関心は、とりわけ中高年の大人の間で、大いに高まっているようです。私自身、文章塾を開いたりすることもありますが、書くプロでない中高年の方がおいでになることも少なくありません。
 聞けば、小説講座やシナリオ講座なども、中高年で盛況だそうです。ご存じの方も多いかもしれませんが、そうした小説講座から芥川賞作家が出てきたりもしています。素晴らしいことだと思います。
 私自身は、主にビジネスの領域で仕事をしてきました。いろいろな人にインタビューをして雑誌やウェブサイトに記事を書いたり、企業やビジネスを取材して書籍にまとめたり。幅広い年代の人たちに、さまざまな情報を、わかりやすく書くことによって提供する。それが自分の仕事だと認識しています。
 そんな立場から、「大人のために」文章をどう書けばいいのか書き記してみたい、ということで生まれたのが本書です。
 今や、文章の書き方について指南した本も、たくさん世の中に出てきています。文章セミナーのようなものもたくさんあるようです。ただ、私が持っている文章へのアプローチは、他とずいぶん違っていると思います。
 私自身が強く認識していることがあります。それは、文章を書く上で大事なことは、文法やルール、文章のセオリーを覚えることではない、ということです。
 実のところ、私自身がそうしたものにはまったく関心がありません。文章を書く際にも意識していませんし、そんなものを覚えても応用が利かないと感じています。
 それよりも大事なことは、書く上でのマインド=心構えを変えていくことです。多くの人が、実は文章に関して間違った認識を持っているのです。それこそ、おかしな呪縛のようなものにさいなまれている。それを解き放つだけでも、文章を書くことに対する気持ちは大きく変わっていきます。
 もうひとつ大事なことは、「文章とは何か」という本質に気づくことです。いったい何のために文章は存在するのか。そもそも文章とは何か。文章は何からできているのか。実は、こうした本質に多くの人が気づいていないのです。
 実際、その認識を変えるだけで、文章は書けるようになると私は思っています。なぜなら、私自身がそうだったからです。
 書く仕事をしている私ですが、実は書くことが好きだったわけでも、得意だったわけでもありませんでした。むしろ、書くことは苦手で嫌いでした。それが今、書く仕事を長くやってきただけでなく、こうして文章を書くための本まで書き記すに至っているのですから、人生は不思議です。
文章嫌いだった私を変えたのが、実はこの二つの「大事なこと」への気づきでした。多くの人が、この気づきを得るだけで、文章を書くことへのイメージが大きく変わっていくと私は確信しています。
 そして今、文章を書くことができることは、大きな意味を持つようになっています。かつては、原稿を世の中の人に見てもらうことは、特別なことでした。メディアに文章が掲載されたりするのは、特定のプロなどに限られていたからです。
 ところが今は、インターネット時代です。誰でも自分を、文章によって発信することができます。書く力があれば、かつてないほどいろいろなチャンスが手に入る時代です。
 しかし、だからこそ気を付けなければいけないこともあります。そのあたりも含めて、「大人の文章講座」として書き記しました。各章毎にポイントのまとめがあり、合計で33のポイントに気をつけていただければ、「人に読んでもらえる」文章が誰でも書けるという構成になっています。
 ひとつのゴールは、「自分史」を書くことに据えています。「なんだ、自分史なんて」と思われたかもしれませんが、実はこの「自分史」のイメージも、本書を読み終わる頃には大きく変わっていると思います。きっと、「それなら書いてみたい」と思われるはずです。それをブログに掲載していく、という道もあるかもしれません。
 文章というもののイメージが変わる。スラスラ書けるようになる。楽しみに、読み進めていただければと思います。
 

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