ドキュメント感染症利権

検証・コロナvs政治
海堂尊×山岡淳一郎(後編) 

――特集対談

2020年4月「緊急事態」が宣言される中リアルタイムで執筆され、急ぎ出版された2冊の本。無為無策の政治風景と医療現場の緊迫を克明に描き出した小説『コロナ黙示録』海堂尊著と、感染症という科学的事象に右往左往する国の有り様を追い医療を蝕む闇を衝いたノンフィクション『ドキュメント感染症利権』山岡淳一郎著だ。両作品の著者が縦横無尽に問う「この国はなぜコロナと闘えないのか」――


▼「自作自演」の衝撃

海堂    アメリカの話が出たところで本に戻りますけど、この本を読んでおったまげたのは、2001年米国同時多発テロ(9.11)の直後に起こった炭疽菌テロが自作自演だったんじゃないかという文脈です。あれはウィキペディアにはあるようですが僕は知らなくて、衝撃で文字通り目が点になりました。

山岡    医学や科学研究と軍というのは常にくっついています。日本の場合は731のことを闇に葬って蓋をして、他人事みたいになっていますが、欧米各国では感染症の研究と軍というのは必ずリンクしていて、バイオテロを防ぐという名目で、一つ裏を返せば武器になってしまうというデュアルユースの世界を地で行っています。日本人はこのことも忘れていますが、今考えておかなければいけない問題の一つだと思います。

海堂    それを考えるためのよすがとして、正しい情報公開の必要性を指摘されていました。僕が思うのは、それと同時に統合した情報公開も必要であって、この『ドキュメント感染症利権』のようにね。本当にこれまでなかった本なので、こういう歴史の流れを通して現状を見ると、政府のコロナの対応が違って見えてくる、いかにまずいものかがよくわかるのです。
 それと維新の会とアンジェスの問題にも触れていましたよね。ここは利権つながりで、面白い話があり、近いうちに小文を掲載することになっています。大阪の吉村洋文府知事がイソジンなどのうがい薬がコロナ感染の予防に効くことを発表して大騒ぎになりましたが、これもう半分しっぽを出しています。
 そもそも維新の会の政策自体が大こけしていたところを、吉村知事が活躍してるなどとメディアが一生懸命持ち上げようとしていましたが、あのうがい薬に関する会見のあと一気にしぼみました。

山岡    イソジンでみそつけちゃいましたね、彼は。

海堂    大阪維新の2人は今回両方ともこけちゃって、それをネタにお笑いにしてイソジン吉村、雨がっぱ松井で出たらM-1グランプリで優勝できるかもしれない(笑)。

山岡    首長コンビ、ザ・首長ですか。

海堂    首長コンビ、いいですねえ。一文字違えば組長だし(笑)。でも、それだと山岡さんのパクリになっちゃうから、他の名前を考えないと。たとえば「ナニワ・ガバナーズ」。小説に書くとしたら、の話です。

山岡    かなり面白いことやってくれそう(笑)。

海堂    雨がっぱぎょうさん集めてこい! とか(笑)。

山岡    あれも異常な話でしたね。

海堂    僕、元外科医なので、ふざけんなって思ってました。雨合羽で手術ができるか! とツッコミ入れますよ。

▼海堂作品のパーツがつながった

山岡    海堂さんの経歴としては、外科医から病理医になられたのですか?

海堂    研修医は外科で、6年くらいやって、医者って6年くらいやると、そのあと博士号を取るんです。そのときに大学院いくか、あるいは大学病院で仕事しながら博士号取るかという二択があって、大学院を選んだら病理が面白くなったんですね。それがPCRで分子生物学。博士号は分子生物学で取りました。一つ間違えば、アンジェスみたいな企業を立ち上げていたかもしれません(笑)。
 話を戻しますが、そもそもアンジェスが、厚労省からの助成金を引っ張るためのペーパーカンパニーではないかと業界内では思われています。研究はほとんど実がないから、あそこでワクチンができるわけない、と。

山岡    薬の利権というと、米国では、ラムズフェルド元国防長官とギリアド社がインフルエンザ薬で大儲けしている話を本に書きましたが、アンジェスはそういう実は取れない?

海堂    アンジェスは虚ですよね。研究はほとんどフェイクだと思っています。僕は大学院でやっていたからわかりますが、分子生物学分野はそういうフェイクの研究ができてしまうような危うい素地があるのです。小保方晴子さんのSTAP細胞騒動も同じです。その辺りのことは、『医学のたまご』(角川文庫)という作品に書きました。

山岡    結局そういう構造が、医療界のいろんなところにあるんですね。

海堂    そうなんです、あるんです。僕は医療界で20年ぐらい過ごしたあとで作家デビューしましたが、そういう話はいっぱい聞いていて、それらが一つ一つ作品の種になっています。僕の作品は決して空想だけで書いているものではありません。作家になってもうすぐ15年になりますが、俯瞰して見ると、じつはあれはこういう中の一つのパーツだったんだ、とわかるようになってきました。そういう全体のつながりの筋道をつけてくれたのが、この『ドキュメント感染症利権』なんですよ。僕は点在している何かもやもやとした問題を作品として次々に書いてきたわけですが、そこに一本背骨を通してくれた感があるわけです。
 だから、『コロナ黙示録』と『ドキュメント感染症利権』は、2020年のコロナ問題を冷静に考えるのにセットの必読書なのです。

山岡    書いた時期もほぼ一緒ですしね。

海堂    『コロナ黙示録』は小説に仕立てていますが、『ドキュメント感染症利権』はその学術的な裏づけをしてくれるぴったりのノンフィクションですから。いや、本当に。

山岡    私も『コロナ黙示録』を読んで、自分と同じ捉え方をしている、と共感を強く感じましたよ。特に、自分の本では描き切れなかった医療の現場の世界がものすごく具体的に生き生きと見えてくる。現場で何が起こっていたのか、フィクションだからこそリアルに生々しく再現されていますね。医療現場の描写は、海堂さんご自身が現場で携わっていたからこそ書ける鬼気迫るものがあって、われわれにはこれ書けないな、と思いました。

海堂    あまり自覚はないんですけど、臨場感については編集さんも太鼓判押してくれました。

▼未知の病気に対処するお作法

山岡    アメリカの話に戻りますが、今回の大統領選でバイデンに決まりましたから、アメリカのコロナ対策はかなり変わるでしょうね。

海堂    もう根底から変わると思いますよ。トランプは「安倍→菅」と一緒で、「国民頑張れ」って応援してただけですから(笑)。

山岡    国民頑張れ、あとはお前たちに任せた、と。

海堂    何度も強調しますけれども、中国の司令塔は、公衆衛生学の老泰斗・鍾南山さんですよ。日本は西村康稔さん。専門家でもなんでもない大臣がなんで、って。

山岡    今、日本でも第三波が来ていると報道され始めましたが、医療に関してきちっと見通せる人がトップに就かなかったら、またとんでもないことになるんじゃないか。

海堂    面白いのは、「第三波」と報道機関は呼んでいますが、そもそも政府は「第二波」を認めていない(笑)。「いわゆる第三波」って、「いわゆる」を強調しています。政府は思いっきりこけにされてる感じしかしませんね。感染者数の棒グラフを見ると山がありますが、二つ目の山は一つ目の山より大きくて、三つ目はもっと大きくなる恐れがあるというのに、このありさまです。

山岡    彼らはだましだまし乗り切ろうとしたけれども、感染症という自然現象はそのまま表れるから、いくらだまそうとしても、やればやるほど馬脚を現していく、それの連続ですよね。
 今日(2020年11月14日)現在で、死亡者数が1800人超えました。2000人超えるのも間もなくでしょう。

海堂    このコロナっていうのが本当に奇妙な病気で、知り合いの医療従事者とも「変だよね」って話しています。これまでの感染症の常識からちょっと外れた病気なんです。僕は2月や3月の頃は弱毒性だと思っていて、今の振る舞いを見ても弱毒性って言ってもおかしくないと思うから、そうすると、この放置政策は正しいことになります。でも、弱毒の中で一部が突然強毒になるっていう二面性が奇妙でして。例えばインフルエンザは年間1万人ぐらいの死亡者ですが、その程度で収まるのなら弱毒の範疇に入れてもいいと思います。ただ、まるでジキルとハイドみたいに突然強毒に豹変するのです。その強毒性に強く引きずられていると思うんです。
 経済優先でやっていく選択肢もありだと思うんです。ただしそれならば、専門家が集まる会議で討議した内容や結果は隠さず全部出すのが筋です。どういう風に決めたのか、やったことをきちんと公開してくれないと。とにかく僕があのやり方を認められないのは、討議した結果を全部隠して、国民のこと考えてますよというポーズだけを出している、欺瞞があるからです。あの手法で、われわれは感染症対策を最も優先に置いていますから、という姿勢をされても「はあ?」っていう疑問符しか浮かびません。

山岡    専門家会議の資料がなぜ黒塗りなのか、ですよね。

海堂    さっぱりわからないですね。一部の人が公開を望まないからという言い訳をしていますが、望んでないのはどう見ても政治家でしょう。

山岡    一時専門家会議のメンバーは出してもいい、とも言っていた。

海堂    当たり前ですよ。たとえ間違えていたとしても、そういう前提で議論したんだっていう記録が見えれば、医者だって神様じゃないですから、ああ、この人のこの前提が間違えていたんだと後で検証できますよ。さらに言えば医者は、あのときはこういうふうに考えてもしょうがないよね、という理解の仕方もできますよ。明らかな間違いでなければね。

山岡    それで自分のメンツが傷ついたかどうかは、小さな問題ですよね。

海堂    メンツに傷つく云々なんて考えないです。私がもしそこに入っていたとして、判断が隣の専門家と食い違うかもしれないけど、よく分からない未知のものに対処するんですから、自信はないでしょう。それでもどちらかの判断を容認しなきゃいけないっていう場面はもちろんあると思います。だから、医者ならば公開を望んだ、非公開を望むはずがないのです。

山岡    とすると、やっぱり政治家もしくは官僚。

海堂    官僚は、この本にも書かれていた薬害エイズ事件の裁判でも、証言出すときには出してますから、自分たちが黒塗りにしたくて出したくないっていうのは考えにくいですね。

山岡    いずれにしても資料や記録が出てこないっていうのは、意思決定の根拠が全く見えないですからね。

海堂    「先生方はそうおっしゃいますけど、やはり経済が大事なんでGo Toトラベルはやります」みたいな発言がおそらくあったのではないですか。旅行業界に利権がある政治家もいるみたいですから。
 

2020年12月9日更新

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海堂 尊(かいどう たける)

海堂 尊

1961年千葉県生まれ。医学博士。
第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)にて2006年デビュー。同シリーズは「桜宮サーガ」と呼ばれ累計1千万部を超える。
他に『螺鈿迷宮』(KADOKAWA)『ジーン・ワルツ』(新潮社)『ブラックペアン1988』(講談社)など映像化作品多数。Ai(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)の概念提唱者で関連著作に『死因不明社会2018』(講談社文庫)がある。近年はキューバ革命などラテンアメリカの歴史を描く『ポーラースター』シリーズも展開している。近作は『コロナ黙示録』(宝島社)。

山岡 淳一郎(やまおか じゅんいちろう)

山岡 淳一郎

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、政治、医療、建築など分野を越えて旺盛に執筆。一般社団法人デモクラシータイムス同人。著書は『原発と権力』『長生きしても報われない社会』(ちくま新書)、『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)、『気骨 経営者土光敏夫の闘い』『国民皆保険が危ない』(共に平凡社)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(共に草思社)、『放射能を背負って 南相馬市長桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)、『医療のこと、もっと知ってほしい』(岩波ジュニア新書)ほか多数。

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