みんながマスクしている映画
枡野 表情がわかんないから、勇気のいる選択だったと思うんですよね。今評判のダウ90000っていう八人組の演劇公演を観たんですけれど、作中で語られる消費税が8%だったんですよ。今だと人前でマスクをしないのは不自然じゃないですか。その不自然さをなくすために、時代設定をちょっと昔にしてるんです。DVDレンタル店を舞台にした『旅館じゃないんだからさ』っていう、今年観た中で一番よかった演劇です。
杉田 なるほど。
枡野 『春原さんのうた』も、リアリズムで考えたら今マスクしてるのは当然だろうなとか思って試写は観たんですが、改めてゆうべ映像で見直してみたら、こんなにもマスクがやたらと出てる映画だったっけ、って驚いた。
東 (笑)
杉田 マスクをしてもらっての撮影では面白い発見もあったりして。ネタバレにならないように話しますが、だれかがだれかの写真を撮ろうとするシーンがあるんですね。最初、ぱしゃって(無造作に)撮ろうとして、あらためて大事に撮ろうと構えたとき、マスクが邪魔になって、はずしたくなるようなんです。
枡野 被写体ではなくて、撮影者のほうがマスクを邪魔に感じて、はずすってことですね。
杉田 そうです、そうです。撮る側が写真を撮るという行為に集中するためにマスクをはずすっていうことが起きる。すると、映画の中で、初めてその人の顔がちゃんと見えるシーンになるんですよね。
枡野 あれは面白いですね。
杉田 映画には、マスクのある・なしみたいな感じで、時代時代で悩むときがあって。たとえば携帯電話が普及し始めたときとか、それがスマホになったときとか、「これどう扱おうか」っていう問題は何年かおきにあるんですよね。で、だいたい最初、抵抗感が生まれるんです。スマホを映画に出すのはやめとこう、とか。でも結局、それは何か新しい映画のアクションにつながっていくので、早いうちに取り入れてしまったほうがいいというか、そんな気がしますね。どうせ、いずれ大したことじゃなくなっていくので。⋯⋯また話が短歌から離れちゃってますね。
枡野 でもやっぱり『春原さんのうた』を観ていて、はっとしましたよ。あっ、撮影する側がマスクをはずすんだ! って。
杉田 よかったです。
枡野 あと、私は杉田監督のデビュー後の映画をすべて観てきたんですが。同じ監督の映画をいくつか観るって、非常に面白いことだと思うんですね。たとえば昔、井口昇監督の映画を夜から朝まで観るというイベントに参加したんです。井口監督作品って、「契約しましょ」っていうせりふが、やたらと出てくるんですよ。なにかしら秘密の関係を「契約」するんですよ、二人で(笑)。それで杉田監督の場合は、映画の中に「撮影する」シーンがとても多くて⋯⋯。
東 そうですよね。
枡野 あとは「窓」が印象的。窓が鏡のようになっていたりとか、窓ごしに外の景色をながめているとか、そういうシーンがじつにたくさん出てくる映画だったんですよ、今作も。そのあたり杉田監督自身は、どう考えてらっしゃるのかを伺いたいと思いました。