『シンジケート』は読んでいたけれど
——そもそも杉田監督にとって、短歌ってどんな存在でしたか? たしか穂村弘さんの『シンジケート』(沖積舎/のちに講談社で復刊)は、読んでいたと伺った気がしますが。
杉田 もうずいぶん前だから、詳しくは覚えてないですけど。学生のときに、通ってた大学(立教大学)の近くの書店で『シンジケート』を見つけて買ったんですよね。たぶん、大島弓子さんの漫画が好きで⋯⋯。
東 帯の推薦文が大島さんですね。
杉田 それもあったかもしれないですね。読んで、すごく面白いと思って、でも、それで満足してしまったんです。それで終わったんです。
一同 (笑)
杉田 そのあと時間が、だいぶあいて。十年ぐらい前につくった一本目の長編映画(『ひとつの歌』)で、重要な役を演じてくれる人、この人はだれがいいだろうっていうのが、撮影の時期が近づいても見つからなくて。その人が見つからないと脚本も書き終えられないというか、そんな状態があったんです。撮影時期だけ決めてて、肝心な部分の脚本を書ききれず、みたいな。ちょうどTwitterが広がり始めた時期でした。当時、枡野さんが毎日、日々のことを31音でツイートされてたんですよ。たぶん、だれかのリツイートで目にしたんです。
枡野 短歌のころですか? 全部のツイートを57577にしていたんですよ、最初のころ。
杉田 そうですそうです、ツイートが短歌だった時期ですね。で、面白いなと思って。書店に行って枡野さんのこれまでの本を、見つけたら買うみたいな感じでした。一番大きかったのは、『結婚失格』(講談社文庫)っていう書評小説が、すごく面白くって⋯⋯。
枡野 『結婚失格』。離婚に直面した主人公が、ずっと本を読んでる小説なんですよね。
杉田 その小説の、内田かずひろさんが描いた主人公のイラストがよくて。お会いしたことはないけど、これはたぶん枡野さんご本人だろうと思うような、たたずまいで描かれていて。それを見てたら急に、自分がこれからつくろうとしてる映画の大事な役、この人が絶対いいはず、って思っちゃったんですよね。
東 すごいですね、イラストで⋯⋯。
枡野 写真ならまだしも、似顔絵なのに。
一同 (笑)
杉田 いきなり枡野さんに連絡したら変な人になるから、まず、自分のことを枡野さんに認識してもらおうと思って⋯⋯。『結婚失格』の感想を、何十もツイートしてみたんです。枡野さんがエゴサーチをするかただと知ってたので、書いてたら気づいてくれるかなと。
一同 (笑)
枡野 エゴサーチで見つけて、読みました。今もう、エゴサーチをやめちゃったので、今だったら気づかなかったと思うんですけど。