もしかして今は短歌ブーム?
枡野 短歌ってもしかして今ちょっとブームなんでしょうか。昔書いた『ショートソング』(集英社文庫)っていう、短歌の出てくる小説がまあまあ売れて、それを映像化したいっていうお話が当時10くらいあったんですけれども、結局ひとつも実現しなかったんです。
杉田 『ショートソング』の映画化は難しいと思います。小説としての純度が高いと言いますか。同じように枡野さんの短歌も。私も前に、自分だったらできるだろうかと真剣に考えてみたことがあるんです。前に枡野さんが、いつも夢を映像じゃなくて文字で見るって言ってたんですけど⋯⋯。長くなるので、それはまたの機会に話しますね。
枡野 はい。ちなみに、そのころ映画化に関して一番熱心だった、原田泉というプロデューサさんは今、「かき氷評論家」になってしまいました。夏になって、かき氷の本を書店で見るたびに、苦い記憶が。原田さんの映画企画は事情があって、こちらからお断わりしてしまったので。
一同 (笑)
枡野 ただ最近、立て続けに短歌が映画化されるようになったのは、短歌自体が前よりは広く受け入れられるようになったからかもと。
東 そうですね。たとえば穂村弘さんと私の共著『回転ドアは、順番に』の文庫化も「短歌はちょっと」っていう感じでなかなか企画が通らなくて。でも、やっと筑摩書房さんから文庫を出していただいて、市場に出てみると、好きになってくれる人はたくさんいて、地道に重版しています。
——「歌集は自費出版」っていうイメージが強かった時代もありましたからね。筑摩書房では穂村弘さん、東直子さん、枡野浩一さんと、短歌の本もいろいろ出してますけれども。
東 短歌は売れないって決めつけられてる部分が、ずっとありましたね。ここ5年ぐらい⋯⋯7、8年かな? ちょっと変わってきた印象です。書肆侃侃房が「新鋭短歌シリーズ」を出したら、重版を重ねる人もいて、ナナロク社とか、左右社とか、ほかの出版社でも若い人の歌集がどんどん出るようになってきて、だいぶ変わってきたな、っていう印象はあります。
枡野 本当ですよね。私がTwitterに短歌を載せ始めたころなんて、自作短歌を載せてる人なんて見かけなかったですよ。今はTwitterで若者が短歌を知って、ちょっと始めてみました、みたいなノリ。短歌の本をよく出している左右社の編集者(筒井菜央)さんが、《若者に「もしかして短歌っていま流行ってるのかな?」って聞いたら「流行ってますよ!最近のシティボーイはスパイスカレー作るか短歌作るかですよ」と断言された。まじか。》ってツイートしたら、バズってました(約2.8万件の「いいね」)。
東 すごいですね。今は、短歌を詠むってことを、そんなに特殊だと感じていない人も増えてきて。もしかしたら、もともと、そうだったんじゃないか、とも思うんですけど。
枡野 今は芸人さんとかも、短歌好きな人がいますよね。又吉直樹さんはもちろんですが、有吉弘行さんとか、「スキンヘッドカメラ」の岡本雄矢さんとか。東さんもよく交流のある「かが屋」の加賀翔さんとか。
東 そうですね。(杉田協士監督の前作)『ひかりの歌』が上映されたときも、短歌が好きな人もたくさん観に行ったし、そうではない人も、出てくる短歌を自然に受けとめているって印象がありました。短歌だから特殊な映画っていう感じではなくて、その世界が好きで、そのもともとのタネが短歌であるっていうところが、とても自然に受け入れられた最初の映画なんじゃないかなって思いましたけど。
杉田 それ、タイミングがよかったのかもしれないですね。『ひかりの歌』は小さいながら、評判になってくれて広がったんですけど、始まる前はそういうことになるなんて正直思えてなくて。出演者も有名なかたは一人も出てないし、私も無名だし、観に行きたいって皆さんが思う要素はたぶんあんまりないっていう。
一同 (笑)
枡野 しかもけっこう、完成までに時間がかかりましたよね。短編4つをくっつけて、ひとつの長編映画にまとめたから⋯⋯。
杉田 2年かかりましたね。短歌に、若い人たちが親しむようになったという空気と、合ってたのかもしれないです。やっぱりもともと短歌が好きなかたとか、実際、ご自身が短歌を詠んでるかたとかも観に来てくれました。
東 主人公が4人もいるし、それぞれの思い入れを観た人がふくらませていたような感じで、熱かったですよね。Twitterとかで出てくる感想が。
杉田 はい。有志の歌人のみなさんが、自分の好きなエピソードについて短歌を詠んで、それを印刷して小冊子にして、関係者にプレゼントしてくれたりしました。
枡野 あれは歌人の本多真弓さん(六花書林より歌集『猫は踏まずに』刊行)とかですね。
東 本多さん、何回も観に来てましたよね。
杉田 そうなんですよ。何回ご覧になったんでしょう、ありがたかったです。私はたぶん、今の時点では一番、短歌を映画にしている人だと思うんですけど⋯⋯。
枡野 第一人者ですね、短歌映画の。
杉田 これまでやってきた実感からですが、短歌と映画は相性いいです。本当に。つくりかたが、似てると思うんですよね。⋯⋯あ、枡野さんの短歌はちょっとちがうと言いますか、また別の特殊な要素があって、やっぱりいったん横に置かせていただいて(笑)。
枡野 (笑)