『武器としての世論調査』リターンズ

第2回 野党共闘はどこへ

『武器としての世論調査』リターンズ―2022年参院選編―

普段ニュースで目にする「世論調査」の使い方を教えるちくま新書『武器としての世論調査』は、2019年6月、第25回参院選を目前に刊行されました。 あれから3年、世論は、そして日本はどのように変わってきたのでしょうか。この間の野党共闘の成果と課題を見ていきます。

 現行の選挙制度では、小泉政権下などのごく一時期を除いて、自民党と公明党が得た票は全国の投票者の半分に届きません。それにもかかわらず与野党の議席に大差がつくのは、自公が協力して候補者を統一している一方で、野党は複数の候補が競合し票の分散がおきてきたためです。そこで2016年以降、野党は共闘を掲げて多くの選挙区で候補者の一本化を行ってきました。特に前回(2019年)と前々回(2016年)の参院選では全ての一人区で与野党一騎打ちの構図をつくりあげて成果を出しています。
 しかし22日に公示された今回の参院選では、実質的な与野党一騎打ちとなったのは11の選挙区にとどまり、21の選挙区で競合が起きることとなりました。今回の参院選は、2016年から進められてきた野党共闘が見通しを失った選挙と位置づけるよりほかになさそうです。野党共闘とは何だったのでしょうか。そして野党は今回の参院選をどのように闘えばよいのでしょうか。今回はそのことを考えていきます。

1.選挙戦術として一本化に意味はあるか

 昨年おこなわれた第49回衆院選(2021年)では、積極的に候補者が一本化されたのにもかかわらず立憲民主党が議席を減らしたため、野党共闘は挫折したという主張が広くなされました。立憲民主党も今年1月27日に公開した「第49回衆議院議員選挙総括」のなかで次のように述べています。
「1対1の構図となる選挙区をより多く作った結果、前回比における小選挙区当選の増加を得るなど一定の成果はあったものの、想定していた結果は伴わなかった。また、比例代表においても得票が伸びず、23議席減となった結果も踏まえると、選挙戦における全体的な戦略の見直しを図っていく必要がある」
 今回の参院選における方針の転換も、こうした総括を受けたものであるのでしょう。しかしながら、全体として議席を減らしたことが野党共闘に起因するのかということは慎重に議論されなければなりません。それというのも衆院の小選挙区は289もあり、各選挙区の構図は様々であるからです。有力な候補者がいて毎回野党が一本化されているところもあれば、共闘を進めようとしたにもかかわらず、かえって候補者が分裂してしまった選挙区もまたあります。こうしたなかで候補者を一本化することの有効性を評価するためには、これまで野党が分裂していた選挙区に限定して、新たに候補者を統一した結果、形勢がどのように変わったのかを調べる必要があるはずです。
 そこで図1には、第48回衆院選(2017年)で野党が一本化しておらず、第49回衆院選(2021年)で立憲民主党に一本化した選挙区について、野党候補のリードの変化を示しました。(野党共闘の有効性を検討する以上、共闘に関与していない維新は、ここでは野党候補として扱っていません。また静岡5区の細野豪志氏と東京21区の長島昭久氏は二度の選挙の間に野党から与党へと移動しているため、別問題として除外されています)

 

図1.野党候補のリードの変化(新たに一本化した選挙区)

 

 図1では、第48回衆院選(2017年)から第49回衆院選(2021年)にかけて、野党候補のリードが増加した選挙区を黄色から赤の配色で、減少した選挙区を水色から青の配色で塗っています。また、灰色で塗られているのは条件に該当しなかった選挙区です。
 ここで、この図はあくまで2回の選挙の差によって塗られていることに注意してください。黄色や赤で塗られている選挙区は必ずしも野党が強いわけではなく、野党が伸びた選挙区です。例えば第48回衆院選で与党が30ポイントリードしていた選挙区があったと仮定すると、野党候補のリードはマイナス30ポイントとなります。これが第49回衆院選でマイナス5ポイントまで縮まったのであれば、野党候補のリードの変化はプラス25ポイントとなってオレンジ色で塗られることになります。この例では2回とも野党候補は落選していることになりますが、「大差での負け」が「僅差での負け」に変化したわけです。
 条件に該当した116の選挙区をみると、野党候補のリードが増加したのは87で、減少したのは29でした。候補者を一本化して有利になった選挙区は、不利になった選挙区の3倍もあったのです。なかでも関東では伸びているところが多く、当時現職の自民党の幹事長であった甘利明氏や、元幹事長であった石原伸晃氏が敗北することとなりました。一本化は都市部の票をまとめる戦術として、特に有効性を発揮したといえるでしょう。
 他方でもう一つ重要な検討があります。新たに一本化が成立したわけではなく、従来から構図が変わらなかった選挙区を検討することで、野党の実力の変化が推察できるのです。図2には、第48回衆院選と第49回衆院選でともに候補者が一本化されていた選挙区について、野党候補のリードの変化を示しました。

 

図2.野党候補のリードの変化(同じ構図の選挙区)

 

 この条件に該当した選挙区は58ありますが、野党のリードが増加したのはわずか14にすぎず、減少したのは44にのぼる結果でした。
 ここから浮かび上がってくるのは、第48回衆院選(2017年)から第49回衆院選(2021年)にかけて野党が勢いを失っていることです。これはまた、立憲民主党の結党直後に行われた第48回衆院選でいかに強い「風」が吹いていたか、そしてそれを失ったことがいかに大きく影響したのかということもできるでしょう。候補者の一本化は、その立憲民主党の勢いの後退を多くの選挙区で補っていたというわけです。

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