あなたは、「社会学」の講義を取ろうか迷っている、大学新入生ですか。
進路の参考にしようという、高校生ですか。
それとも、復習をかねて手軽な新書をと手を伸ばした、社会人ですか。
どなたもこの本を選んで、大正解! 社会学がどういう学問か、この一冊でしっかり、輪郭を摑むことができます。
社会学の教科書が、いっぱい書棚に並んでいます。
全部で一五章あって、まんべんなく社会学のテーマが並んでいるのは、大学の講義のテキストです。授業とあわせて読むものなので、それだけ読み通すのは大変です。英語の教科書は、もっと分厚いのがあります。たとえば、アンソニー・ギデンズの『社会学』。翻訳もあって、まるで電話帳です。参考になりそうなことなら何でも書いてあるので、百科事典のようです。隅から隅まで吸収すると、社会学がすっかりわかってしまう本格派ですね。
それに比べると、本書はずっとスリム。章立てもシンプルです。社会学がどんなものだか、ちょっとだけ知りたい、社会学の世界をのぞいてみたい。そういう読者の皆さんに、気軽に手にとってもらいたいからです。
本書は、一九九三年に出版された、『わかりたいあなたのための社会学・入門』(別冊宝島)がもとになっています。以来、増刷を重ね、多くの人びとに親しまれてきた、入門書の定番中の「定番」です。
ですから、安心してお読みいただけます。
とはいえ、出版から二〇年あまりを経て、世界も社会も、人びとも、変わりました。社会学の本質は変わらないとしても、手直しの必要な部分も出てきました。そこで今回、ちくま新書から再刊するにあたり、少しだけリメイクを加えました。
・原著から、初心者が社会学を体系的に学ぶのにちょうどよい、五つの章を選りすぐって、コンパクトに編集しました。
・第2章「理論社会学」は、九〇年代以降の成果を盛り込んで、書き加えました。
・第5章「家族社会学」は、この二〇年あまりの家族をとりまく状況が大きく変化したため、新たに書き下ろしました。
・そのほか、再刊を機会に見直して、内容を更新した箇所があります。
・タイトルも、『社会学講義』と改めました。
こうして、新書で読める社会学の入門書、参考書として、ピカピカに生まれ変わったのではないかと思います。
社会学をどう勉強したらよいのか、わからない、社会学は摑みどころがなくて、よくわからない、という声を聞きます。
社会学は、簡単です。あなたも私も、誰もがいま生きているこの社会の、常識をベースにしているからです。そして、社会学は、むずかしいです。どこをどう勉強したら、その常識を超える「学問」になるのか、コツがわからないからです。
本書にはその、コツが書いてあります。
経済学しか勉強しない、政治学しか、法学しか、理工系の学問しか勉強しないできた人びとが、社会について発言するのを聞くと、おやっと思うことがよくあります。それはただの理屈でしょう。実際の人間は、そうじゃないよ。実際の人びとは、そんなふうに生きてないよ。それらの学問が関心を払わないで、無視している、具体的な社会があるよ。
そういうことを、はっきり根拠をもって言えるようになるのが、社会学を学ぶということです。社会学のほんとうの教科書は、この社会そのものなのです。そのことに気づけるようになれば、あなたはもう、社会学のコツを摑んだも同然です。
本書を役立てて、読者のみなさんが、この社会をよりよくしていくための、具体的な活動に取り組まれることを期待します。
二〇一六年七月
橋爪大三郎