みんな”普通

第6回 確実に不幸になるための、ある言葉

連載再開の1回目は、ぼくが知っている「絶対に不幸になる言葉」の話です。その言葉を使うと幸せになれない!?

おひさしぶりです、ずいぶんサボっちゃったんだけど3年ぶりの連載再開となりました。10代の濃密な3年間、考えることも変わっただろうし背も伸びたよね。なんて親戚のおじさんみたいなことを言ってみたけど、そもそも同じ人が読んでくれてるのかな。

3年前を思い出してみると、なんといってもコロナ禍のど真ん中だった。2021年は1年の半分くらい緊急事態宣言で、22年には「まん防」が終わって、23年にはインフルエンザと同じ「5類」になってマスク着用が任意になった。

で、24年のいまは街もすっかりにぎやかだしイベント類は復活したし、インバウンドの観光客も爆増している。学校もほとんど通常運転に戻ったと聞いたけど、どうなんだろう(熱が出たら無理して登校しない、とかはそのまま浸透してほしいけど)。

このてんやわんやの数年で、社会はすこし変わった。学者じゃないから正確な分析はできないけど、なんとなくそう感じてる大人は多い気はする。でも、そのなかで人間が普遍的につまづきがちなところってあるし、「じゃあどう生きていけばいいの?」というのは経験がものを言うところでもある。

ということであらためて、先輩のおじさんとしてこの3年間で考えたり気づいたりしたことを、これから社会に踏み出す若いみなさんにしたためていこうとおもう。どうすればいろんな人が集まる社会のなかでハッピーにやっていけるか。これからの時代のあたらしい「処世術」の話です。

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最近、太宰治の『人間失格』をはじめて読んだ。「この本、知ってます?」「読んだことあります?」と周りに聞くとほとんどみんな知ってるし読んだことがあるので、名作ってすげえなあとあたりまえのことに感心している。

「読んだことなかったのかよ、おじさんのくせに」とおもうかもしれないけど、こういうのはタイミングだし何歳でなにをしても遅すぎるってことはない。そりゃ若いほうが吸収力は高いし理解も習得も早いんだけど、だからといってなんにも挑戦しなかったらつまんないでしょ。女優の中尾ミエさんは70歳を超えてから空中ブランコにチャレンジしたらしいし。

それで話を戻すと、初『人間失格』はけっこうな衝撃作だった。めちゃめちゃおもしろいね、これ。印象的だったのは「弱虫は、幸福をさえおそれるものです」という一文で、読みながら膝をパチンパチン打った。1948年の作品なんだけど現代でもまったく同じで、たしかに自分を幸せから遠ざける人はいるなとおもったのだ。

 

ぼくが知っている「絶対に不幸になる言葉」がある。その言葉を使うと幸せになれないってみんなうすうす気づいてるのに使われがちな言葉。「幸福をおそれて」不幸を選ぶような人が使う言葉。

それが「ずるい」だ。「あいつばっかり褒められてずるい」とか「実家がお金持ちでずるい」とか。

もうね、大人が「ずるい」って使った瞬間、蜘蛛の糸は切れてしまうと思っていい。これはぼくも読んだことがあるから自慢げに言うんだけど、『蜘蛛の糸』は芥川龍之介の名作で「救済のチャンスを独り占めしようとした男が地獄に戻る話」だ。「ずるい」には自分を地獄行きにする力がある。

そもそも「ずるい」は「本来得られるはずがないものを正しくない方法で得ている」という意味で、最近は「チート」とも言うらしいけれど、いずれにしても正真正銘の「ずる」(ゲームでいかさまをするとか)をのぞけば嫉妬由来の発言だ。そして嫉妬するってことは相手がうまくいっているということだ、失敗した人を見て「ずるい」とは思わないんだから。

ここで考えてほしいんだけど、なんで幸せそうにしてる人を憎んでウダウダ文句を言ったりするんだろう。足を引っ張るようなことをするんだろう。

これまで「ずるい」と言う人を観察してきてわかったのは、彼らは幸せを「取りあうもの」だと捉えているということだ。勝手にゼロサムだと思ってピリピリしている。ゼロサムっていうのは「こちらが5得点したら相手は5失点したことになる」という意味で、勝者がいるなら敗者がいなきゃおかしいよねって考え方です。

ただ、ふつうに生きてきた大人は知っているけれど、幸せや得というのは総量が決まっていない。上限もない。だれかが幸せだから自分が不幸になるわけじゃないし、だれかが得しても自分の得の取りぶんが減るわけじゃない。人気アイドルのライブチケットとはちがって無限のものだ。人の幸せな姿を見ると機嫌が悪くなっちゃう人は、自分の分の幸せを取られちゃったと勘違いしてるんだとおもう。だから、他人の足を引っ張ることに命をかけるようになってしまう。

もちろん、シンプルに「ほかの人が自分より幸せになったらムカつく」という人もいる。1億総中流社会の名残というか、日本ならではの平等意識で「みんな一緒」にこだわって出る杭を打ちまくる人。でもほんとうに「みんな一緒」の社会だとがんばる人がいなくなっちゃうし、出る杭を打つとみんなで不幸になるしかないんだよね。

 

嫉妬について調べてみるとおもしろくて、サルもこの感情を持つことがわかっているらしい。ネットで探すと、笑っちゃうくらい不公平にキレ散らかしてるサルの動画があるからぜひ見てみてほしい(ただ、得してるほかのサルじゃなくて不公平を与えた研究者にキレてるから人間より理性的じゃんっておもうんだけど)。

とはいえ、野生の現場では食べものも住処もパートナー候補の数もかぎられてるわけで、損しないよう必死になるのはあたりまえだ。相手の幸せが自分の不幸に直結するんだから、それは脅威だろう。

あと人間でもちいさい子どもは仕方なくて、SNSでもぼくの周りでも「近くの人間がだれも言ってないのに子どもがずるいと言う」ってよく聞くから本能みたいなものなんじゃないかとおもう。

だけどぼくらが暮らしてるのは野生の現場じゃない、割とちゃんとした文明国だ。そしてもう、ぼくらはちいさい子どもでもない。大人にもなって「ずるい」なんて言葉を使ったら地獄まっしぐらということは、もうすぐ大人になるみんなは忘れないでほしい。

ほんとうに、「ずるい」は撲滅していきたいよね。「ずるい」って思わなくなるだけでぜったい生きやすくなるし、「ずるい」って言われなくなるだけでより幸せになれるよ。

じゃあ、どうすれば人生から「ずるい」を消し去れるのか。っていう具体的な対策は、次回につづきます。

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