選ばない仕事選び

第5回 仕事とは世界を変えるもの

浅生鴨さんの連載第5回。職業と仕事は違うもの。では、仕事って何だろう?? そもそも、なんで働かないといけないんだろう??

仕事の動作と仕事じゃない動作

前回も書いたように、職業にはそれぞれ特有の動作があって、その動作こそが仕事なのだと僕は考えている。作家は職業であって、仕事そのものじゃない。作家の仕事は何かを書くことだ。営業の仕事はサービスや商品を勧めたり売ったりすることだし、鍛冶職人の仕事は金属製品を作ることだ。あくまでも仕事とは動作なのだ。

とは言え、どんな動作もすべて仕事ってわけじゃない。僕たちは朝起きてから夜寝るまで、ずっと何かしらの動作をしているけれども、その何もかもが仕事じゃないことは、みんなにもわかるだろう。じゃあ、仕事の動作と仕事じゃない動作の違いはいったいどこにあるのだろう。

仕事とは世界を変えるもの

それは、世界に対して意志を持って働きかけているかどうかなのだ。

もうちょっとだけ詳しく書くと、その動作をすることによって世界をほんの少しだけ変えたり、世界に何かを付け加えたりする、そういう動作が仕事なのだと僕は考えている。

掃除をすれば、掃除をする前よりも世界は少しだけきれいになる。ものを売れば、買った人の生活が少し変わる。誰かの手当をすれば、病気やケガが治る。何かを教えれば、新しい知識を持つ人が増える。それが仕事なのだ。

じゃあ、誰も読まない文章を書いたらどうなるのだろう。誰も聞いていないのにピアノの演奏をしたらどうなるのだろう。世界は変わるのだろうか。僕は変わると思っている。

たとえ読む人がいなくても何かを書けばそれは世界に残る。書かなければ存在しなかったものがどこかに残るのだ。演奏しなければ存在しなかった音が、その新しい空気の振動がつくられるのだ。すぐに消えてしまうかも知れないけれども、一瞬だけかも知れないけれども、それでも世界に新しい何かを付け加えている。

だから僕は、それもまた仕事なのだと思う。

ゴロゴロするのは仕事になる?

さあ、それではゴロゴロするのは仕事なのだろうか。何度も書いているように僕は働きたくない。何もせずに、ずっとゴロゴロしながら暮らしていたい。

僕の決めたルールでは仕事とは動作のことだ。ゴロゴロだって動作なのだから仕事と言えないだろうか。僕としては言いたい。声を大にして言いたい。

でも、僕が意志を持ってゴロゴロすることで世界は変わるのだろうか。ゴロゴロすることで、何かが新しく世界に付け加えられるのだろうか。僕には思いつかない。どう考えても、僕がゴロゴロしてもしなくても世界は変わらない気がするのだ。

世界を変えない動作は仕事じゃない。

つまり、ゴロゴロは仕事じゃないのだ。ただの動作なのだ。そもそも僕の言う「ゴロゴロしたい」は「何もしたくない」ってことだから、それを動作と言っていいかどうかも怪しいくらいだ。

もちろん「ありがとうございます。あなたがゴロゴロしていると知って気分がよくなりました!」だとか「あなたがゴロゴロしているという噂を聞いて、すばらしいアイデアが生まれました!」という人が現れたら、それはもう仕事だと言えるだろう。でもたぶん現れない。待っているけど、たぶん現れない。

ああ、残念だ。あまりにも残念だ。本当は今回のこの原稿で、ゴロゴロだってちゃんとした仕事なのだと言い切るつもりだったのに、正反対の結論になってしまった。これは困ったぞ。

僕が働かなきゃならない理由

どうして僕はゴロゴロだって仕事なのだと言いたかったのか。それは、人間は働かないと生きていけないからだ。仕事をしなければ生きていけないからだ。いや、厳密に言えば仕事をしなくても生きることはできる。動物だって植物だって仕事はしていない。意志を持って世界に働きかけてはいない。それでもちゃんと生きているじゃないか。それなのになぜか僕たち人間は働かないと生きていけないことになっている。おかしいじゃないか。どういうことなんだ。誰が決めたんだ。

その理由はみんなだってよく知っているだろう。お金だ。

僕がこれほど働きたくないのに働かなきゃならない一番の問題は、僕も含めて、ほとんどの人は仕事をしなければお金が手に入らないことにある。

僕たちの生きている現代の社会では、生活をするためにはお金が必要で、そして基本的に、お金は仕事をすることでしか手に入らない。

食べるものにも、住む場所にも、着る服にも、移動にも、娯楽にも、すべてお金が必要になってくる。

誰とも会わず、何も持たず、電気もガスも水道もなく、安全も保証されない場所で、たった一人だけで暮らすのなら、お金がなくても何とかなるかも知れない。けれども僕たち人間は社会をつくる生きものだ。そして社会の中で暮らすにはどうしたってお金が必要なのだ。

どうやら僕たちはお金を手に入れるために仕事をしているらしい。そんなの当たり前じゃないか。みんなは今そう思っただろう。

でも一つだけ知っておいて欲しいことがある。

じつは、お金ってのは仕事とは何の関係もないものなのだ。

それはさておき、なんとかゴロゴロが仕事にならないものだろうか。僕のゴロゴロを仕事にしてくれる人、待っているぞ。