ちくま新書

フィレンツェの石

この世に無数に存在する石の中には、目を引く美しい模様を持つ石が多くあり、またそこには様々な物語があります。 6月刊『奇妙で美しい 石の世界』(ちくま新書)の中の一篇「フィレンツェの石」を公開いたします。 (※写真は、実際の本とはトリミング・配置が違っており、こちらでは省かれているものもあります)

 ユニークな模様をもつ石灰岩「フィレンツェの石」には、風景画のような石だけではなく、抽象画のような石もある。

 フィレンツェ市内を流れるアルノー川上流には、とてもユニークな模様をもつ石灰岩が数種あり、ルネサンス期からモザイク画などに使われてきた。複雑な線が縦横無尽に走り、線によって仕切られた面が微妙な色の濃淡をみせる「アルノーの緑」や、年輪のような同心円模様を基調として、微妙な模様のズレの反復が美しい「アルノーの線模様石」は、近代美術が追求してきた純粋に抽象的な美のバランスを、巧まずしていともたやすく示しているかのようにみえる。石を断裁することで偶然に現れた模様は、「完成」されているとしかいいようのない造形の妙をみせるのだ。

 2011年、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展において、アルノー川上流で採取された石約800点が、作者のいない芸術作品として出品された。フィレンツェで画商を営むジョヴァンニ・プラテージが個人的に集めた石で、現在、フィレンツェの南東約30キロにあるフィグリーネ・ヴァルダールノの古い病院の礼拝堂を改築した博物館に展示されている。

 

 
 
3点ともパウル・クレーの絵を思わせる、「アルノーの緑」の幾何学的模様。

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