日本では、野球はほかのスポーツとどう違うのか?
私、大林素子はバレーボールの世界で生きてきました。
東京の小平二中の一年生からバレーを始め、高校はバレーのスポーツ推薦で八王子実践に入学しました。卒業後は、実業団チームの日立に入り、山田重雄監督の指導を受けることができました。
名門チームで指導を受けたおかげで、幸運にも、ソウル、バルセロナ、アトランタと3回のオリンピックに出場する機会を得ました。また日本人で初めて、プロとしてイタリアのセリエAでプレーした経験もあります。
このように恵まれた環境でプレーできたのは、きっと私の周りにバレーを愛する数多くの素敵な人たちがいてくれたからでしょう。そのようなサポートをしてくださった方々に、いまさらながらに感謝する次第です。
こんな自己紹介みたいな文章を書いているのは、私の知る限り、バレーボールの世界では、あるレベルの選手たちは、子供のころから“ある種の特別待遇”の中でバレーができるということを言いたかったからなのです。私も親には経済的な負担をかけずにバレーに打ち込みました。精神的にはいろいろと苦労をかけたかもしれませんが……。
いまでも春高バレー(全国高等学校バレーボール選抜優勝大会)に出場するぐらいの強豪校なら、たいがいスポーツ特待生制度やスポーツクラスがあります。有名校には全国から、うまい選手が特待生として入学して鍛え上げられます。高いレベルで練習することで、もっともっと技術が磨かれるのです。バレーだけでなく、ほかのスポーツもそうでしょう。
でも私は、野球には、何かもっと特別な感じがしていました。いま思うと、バレーボールとは比べものにならないほど、もっと大きなお金が関係していることを、直感的に思っていたからかもしれません。
私が高校生当時の日本のバレーボール界では、プロ契約など夢のまた夢でしたので、「野球のうまい生徒は、いずれドラフトで選ばれ、プロになれていいな」と考えていました。
『高校野球「裏」ビジネス』を読むと、大金が乱れ飛ぶ、すごい仕組みがあることをより詳しく知らされて、複雑な思いがします。
著者が、自民党の高校野球特待生制度問題小委員会で報告した「ボーイズリーグの一部、悪徳指導者とそれに連なる幹部、その間の闇でうごめく“野球ゴロ”や悪徳ブローカーたち」の具体例は衝撃的です。
特待生になるような生徒でも不安でいっぱいです。親もそうです。それよりも、あと一歩、力が足りない生徒や親なら、お金で安心を買いたいと願っても不思議じゃありません。それは、野球部を強くしたい学校も同じでしょう。そんな弱みにつけこんで、大金を稼いでいる人たちがいるのです。
そういう人たちと反対に、高校野球を心底愛する関係者の努力、スポーツ選手としてだけでなく人間として教育しなければいけないと考える指導者の感動的な姿もレポートされています。ダルビッシュや田中将大など、いまをときめく選手の話も書かれています。
ひとつひとつのエピソードが、なるほどとうならせる。未来を夢見て一生懸命に練習している選手たちに罪はありません。野球のあるべき方向は、大人たちが責任をもって示してあげないと、純粋にボールを追っかける子供たちの姿が、日本から消えてしまうかもしれません。
この本を、スポーツを愛するすべての人にぜひ読んでもらいたいものです。お子さんを甲子園球児やプロ選手にしたい親御さんは、だまされないためにも絶対に読むべきです。
日本のスポーツ界がより発展することを心から祈っています。