佐藤文香のネオ歳時記

第5回「マキアート」「そうだ 京都、行こう。」【秋】

お待ちかね!(かどうかはわからぬが)「佐藤文香のネオ歳時記」がついにスタート! 「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・行事】
そうだ 京都、行こう。
傍題 そうだ 京都は、今だ。

 1993年から始まったJR東海のキャンペーンキャッチコピー。通年ものではあるが、やはり京都といえば紅葉のころの観光のイメージが強く、秋の季語としてみた。京都の紅葉は11月中旬だから、行こうと思い立つのは10月ごろからだろうと思う。最近は京都中心部に観光客が多すぎるからか、2018年の夏は「京都から、もうひと足で出会う涼景」と題して「びわ湖セット」・「比叡山セット」を販売している。個人的に気になっているのは苔アートを展示する「モシュ印・コケ寺リウム」キャンペーン。アートよりキャンペーン名が気になる。
 俳句をやっていると言うと寺社仏閣が好きだと思われることがあり、実際にそれらが好きな俳人というのも案外いる。が、私は嫌いとは言わないまでも、まったく詳しくなく、寺や神社に行くために出かけるということもほとんどない。根本的に飲食が好きなので、飲んだり食べたりできない場所にはさほど興味がないのである。よって、何度か京都に行き清水寺や銀閣寺などいろいろ行きはしたものの、残念ながらあまり覚えてない。
 京都で思い出深いのは、元田中の日本酒バー「電球」だろうか。一緒に行ったのは高校の同級生で、現在はドイツ文学の研究者。彼は高校時代美術部で絵が上手い上、読書家で勉強がよくできたので、同じクラスになったことはなかったけれど、ひそかに尊敬していた。卒業して何年か経って、共通の友人(ドイツ文学と俳句をやっている人)がいることがわかって仲良くなれた。ラッキー。何を飲んだかはすっかり忘れてしまったが、日本酒の話を聞きながら飲む日本酒はうまかった。けっこう飲んで酔って、帰りは途中まで電車に乗って、ひとりですこし夜の鴨川沿いを歩いた。よかったな。あの夜の京都は、私の京都だった。
「そうだ 京都、行こう。」の写真には、絵葉書的な風景だけが使われるようだ。それは、極限まで一般化された美しい京都像の提示といえる。しかし、私たちが京都に行こうと思うときに求めているのは、その京都の景色を纏う自分であり、自分のものになった京都だ。そういった、ちょっとナルシスティックな気持ちに、秋の京都はこたえてくれる。


〈例句〉
硝子に映る全身 そうだ 京都、行こう。  佐藤文香
さうだ きやうと、いかう。と君は旧仮名で