佐藤文香のネオ歳時記

第26回「駱駝」「ラジオ」【秋】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・動物】
駱駝
傍題 一瘤駱駝 二瘤駱駝

 先日那須どうぶつ王国へ行き、そこで駱駝の素晴らしさを知った。
 那須どうぶつ王国はいくつかの室内動物園から成る「王国タウン」と、そこから園内バスなどを使って行く牧場「王国ファーム」に分かれている。昼前に到着した私たちは、まず「王国ファーム」の端にあるお店でご飯を食べることにした。お店と言っても、カウンターで頼んだものを受け取って、好きに席について食べるフードコート的なところで、屋根はあるが屋外である。横には「アルパカの丘」が広がっていたので、アルパカが好きな私は、よく見えるところに陣取った。
 スペアリブランチを手に入れた私は、丘のアルパカを見ながら食べ始めた。しかし夫がいつまで経っても帰ってこない。丘とは逆方向の店の方を目で探すと、なぜか子供に大人気のアルパカレー(カレーの真ん中にアルパカ型のライス)の列に並んでいた。その向こうには馬たちのいる「ホースコーナー」があった。そこになぜか、駱駝はいた。フタコブラクダだった。ここではおやつを購入すると、小さなスコップで動物に食べさせることができる。子供達はそれぞれ馬や駱駝におやつをあげていた。馬に餌をやるのは見たことがある気がするが、駱駝がものを食べているのを見るのは、たぶん初めてだ。アルパカレーを一瞬で食べ終わった夫に、私は言った。「駱駝が見たい」。
 近づいてみると駱駝は思ったより大きい。そして思ったより毛が長い。とくに首から胸にかけての毛がふさふさである。黒目が大きく、慈しみの表情をしている。抱きしめたくなった。おやつを食べるときは、口をとがらせて上唇で掬うようにする。駱駝宛に差し出されたおやつを馬が横取りしようとし、駱駝が慌てて避けた。すると、駱駝の瘤が左右にぷるんぷるんと動いた。駱駝の瘤は脂肪だが、全方位的に山になっているのではない。横から見ると山だが前から見ると細い。すなわち縦に平たいのである。それが横揺れする。瘤にも毛が生えてふわっとしている。そのキュートさ。私はすっかり駱駝の虜になっていた。那須に来てよかった。また訪れる機会があれば、今度はぜひ乗りたい。
 さて、ネオ季語としての駱駝の話。駱駝→砂漠→月の連想からも秋の季語としてぴったりだし、色合いや寂しげな眼差し、アルカイックスマイルとも言うべき口元も秋に合う。「秋深む駱駝はまぶたばかりなり(柿本多映)」「秋の日が墜ちる駱駝はかんがへる(富澤赤黄男)」など、すでに秋の駱駝を詠んだ名句もある。
 なお、アルパカも駱駝の仲間ではあるが、秋の季語にするにはイマイチ哀愁不足か。アルパカはうちの妹に、駱駝はうちの母に似ている。
 

〈例句〉
那須の空ステイで止まる大駱駝  佐藤文香
二瘤駱駝の前瘤左右に揺れ弾む
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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